スギカミキリは、重要なスギ・ヒノキ人工林の害虫である。温暖地では通常1年1世代であるが、寒冷地などでは2年1世代の個体も存在することが知られている。本種の生活史と被害との関係を考えた場合、1年1世代の場合は、2年1世代に比べて産卵頻度が増すため、被害が激害化していることが考えられる。しかし、1世代が1年か2年かを決定する調節機構や、2年1世代の個体の生活史の詳細は明らかにされていない。このため、2年1世代の個体の分布なども推定できない。本研究では、幼虫が低温を感受すると蛹化を抑制して、2年1世代となることを明らかにした。蛹化抑制においては、多くの昆虫では日長を利用するが、本種では日長の影響はほとんど無く、低温が主たる要因であった。また、2年1世代の個体は、福井、岩手、茨城の地域個体群と関係なく、1年目に老熟した幼虫が蛹室の中で越冬し、2年目の夏には幼虫は摂食することなく羽化した後、成虫で越冬して、翌春脱出することが明らかとなった。これらの知見は、本種の2年1世代の個体の分布解明や、温暖化の進行にともなう1年1世代の個体の分布域の北上予測などに寄与する。また、越冬幼虫、蛹、越冬成虫の耐寒性を調べたところ、蛹は幼虫や成虫に比べて過冷却点が高いだけでなく、10℃の温度条件下でも正常に羽化できない個体が多く見られた。本種では、秋の低温による蛹での死亡や羽化異常を避けるために、幼虫が早めに低温を感受して幼虫態での越冬を選択している可能性が考えられた。
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