1978年から毎年施肥(NPK区、NP区、無施肥区)が行われているウダイカンバ林とトドマツ林を材料とし、施肥による窒素とリンの飽和やカリウムの相対的な不足が樹体と土壌の養分状態および水ストレスにおよぼす影響を調査した。長年の施肥によって、施肥区の土壌では酸性化が進み、土壌や土壌微生物が保持する養分量が減少し、堆積有機物量が増加していた。表層土壌の交換性カルシウム、マグネシウム量は両樹種とも施肥区で少なかったが、交換性カリウム量はNP区で最も少なかった。可溶性N量や全N量には処理間差はみられなかった。可溶性リン量は、無施肥区で少なく、特にNP区で多かった。NP区とNPK区の土壌では無施肥区よりも相対的にカリウムが不足していることが明らかとなった。トドマツの当年葉は、NP区でカリウム濃度が低い傾向があり、ウダイカンバの葉では、NP区でマグネシウム濃度が低く、施肥区で窒素濃度が高い傾向がみられた。両樹種とも施肥区で葉のマンガン濃度が高く、アルミニウム濃度も高い傾向がみられた。葉の養分濃度は土壌の養分バランスの変化や酸性化の影響を反映していたが、樹種による応答の違いがあることが明らかとなった。 水ストレスの指標となる葉の炭素安定同位体比には、有意な処理間差がみられなかった。本研究期間中に降水量が平年値以下の年がなかったことが影響している可能性があるため、過去(1978~1995年)に採取された葉試料のうち、年降水量の少なかった(1000mm以下)年の試料5年分についても炭素安定同位体比を測定した。無施肥区の炭素安定同位体比が施肥区より低い年が、トドマツでは2年、ウダイカンバでは4年みられた。降水量の少ない年の試料では無施肥区の炭素安定同位体比が施肥区より低い年があったことから、相対的なカリウム不足により水ストレスが助長される可能性があるが、さらなるデータの蓄積が必要と考えられた。
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