研究課題/領域番号 |
26450223
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
関野 登 岩手大学, 農学部, 教授 (30171341)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 木質系断熱材 / 熱伝導率 / 輻射熱伝達 / カーボンブラック / 平衡含水率 |
研究実績の概要 |
木片断熱材の性能改善すなわち熱伝導率を低減を、木片表面の輻射熱伝達の抑制から達成させるのが本研究の目的であり、その手法として木片表面へのカーボンブラック(CB)添加に着目した。具体的な研究項目は次の4点となる。①CB添加量と熱伝導率の関係、②断熱材内の輻射低減効果の数値化、③CB添加による吸湿性および吸湿応答の変化、④実大厚さサンプルを用いた断熱性能。 初年度は市販墨液を用いた場合について、上記①、②、③の検討を行った。原木密度350kg/m3と440kg/m3のスギ、540kg/m3のカラマツから実験室的に調製した木片を用いて試験体マットを製造した。CB添加量は木片全乾重量に対する墨液の固形分重量の比率で3水準とし、2~12%の間で変化させた。試験体マットの含水率レベルを7~15%の間で変化させ、平均材温27~29℃における熱伝導率を平板比較法により測定した。また、CB添加木片の平衡含水率(20℃における吸着等温線)の測定を行った。さらに、マット構成成分の直列・並列モデルの混合則による数値計算を行い、マット内粗空隙の等価熱伝導率(対流・輻射熱伝達を含む見かけの熱伝導率)を推算した。得られた結果の概要は、以下のとおりである。 CB添加による木片マットの熱伝導率の低下を同一温湿度環境下(20℃40%RHおよび20℃80%RHの2条件)で比較した結果、RH40%という中湿度領域では平均4.5%、最大で13.1%の低下(断熱性改善)が認められたが、添加量との間に有意な相関は認められなかった。数値計算で得られたマット内粗空隙の等価熱伝導率はCB添加により平均で7.9%、最大で12.8%低下しており、輻射抑制効果が確認された。一方、RH80%の環境下ではCB添加による熱伝導率の低下は認められず、その要因として、市販墨液中の膠成分の高い吸着性によるマット含水率の上昇が挙げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究実施計画は、市販墨液をカーボンブラック(CB)として木片に噴霧、乾燥し、それを原料としたマット断熱材の熱伝導率を測定して、断熱性能の改善効果を検討することであった。3水準の原料密度、3水準のマット密度という計9条件のもとで、CB添加割合をそれぞれ3水準で変化させ、未添加に対する添加後の断熱性改善効果が調べられた。その結果、マット断熱材の熱伝導率には吸着水分の影響が反映し、中湿度環境下ではCB添加による明白な断熱性改善効果が認められたが、高湿度域では用いたCB(市販墨液)の吸湿特性が影響して、有意な改善効果は認められないという基礎知見が得られた。 研究計画ではCB添加方法の最適条件を見出す実験計画を立てていたが、上記のような添加CBの吸湿性の問題が浮上したため、添加方法自体の最適化を行う前に、種々のCBの特性に関する情報収集が先決問題と考えられた。そこで、吸湿性の少ないCBの選定をすすめ、国内メーカーからサンプルを入手した。現在は、そのサンプルの吸着等温線のデータ収集を行っている(2015年4月)。 市販墨液のような吸湿特性(特に高湿度での高い吸湿性)を持つCBを輻射抑制の添加剤とすることは、高湿度域で水分が熱伝導に影響するため、不向きであることが本研究から明らかとなった。添加剤としてのCB選択の評価項目として、水分吸着特性は研究計画時には考慮されておらず、その必要性が再認識された点でも成果の一つと言える。また、木片表面の輻射抑制の定量化指標として、マット構成成分の直列・並列モデルの混合則による数値計算からマット内の粗空隙の等価熱伝導率を算出することは平成27年度の研究計画内容であったが、初年度でも予備的に実施し、CB添加による輻射抑制効果を等価熱伝導率の低減率という指標で定量化した。以上のような理由から、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述のようにCB添加剤は、極力、吸湿性が少ないことが求められる。吸湿性の小さなCBを添加することで、中高湿度全般に渡って木片マットの断熱性改善が図られる製造条件を模索する。現在、分子量と極性基の存在量が異なる3種類のCBを入手し、それらの吸着等温線を測定中である。今後は、その中から最も吸湿性の低いCBを選択し、初年度と同様な方法すなわち、各種原料及び各種マット密度のもとでマット断熱材の含水率状態を変化させて熱伝導率を計測する。なお、初年度で実施したCBの添加率は2~12%の間で変化させたが、噴霧時の希釈状態を変化させることで、木片全体への均一噴霧を検討し、より少ない添加率(2%以下)での輻射抑制効果を検討していく。また、CB添加後の顕微鏡写真(50倍~1000倍)により、木片上のCBの付着・分散状況の観察を行う。以上のような方策により、最適なCB添加条件と添加方法を見出すことを目的とする。 一方、マット内の粗空隙の等価熱伝導率の数値計算では、CB添加による熱橋の問題を考慮する必要がある。平成26年度に行った数値計算では、CB添加で発生する可能性がある熱橋は無視されており、無視できる範囲内であるかの検討が必要である。そこでCB添加による熱橋の影響を木材実質の熱伝導率に上乗せする方法で数値計算を実施し、算出される輻射抑制効果との関係を調べる。 また、マット内の粗空隙の輻射抑制に関して、CB添加とは抑制原理が異なる手法を試行し、輻射抑制による木片マットの断熱性改善を考察する。具体的には15μm程度のアルミ箔の小片を木片マットと混合させてマットを形成し、マット内粗空隙の熱線反射による熱流方向への輻射抑制を期待する。この方法で達成できる断熱性改善とCB添加による断熱性改善を比較し、多面的に考察することで木質系断熱材の性能改善に役立てる。
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備考 |
本研究の成果発表において、日本木材加工技術協会第32回年次大会(秋田)優秀ポスター賞および第65回日本木材学会大会優秀ポスター賞の栄誉を頂いた。
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