木材残廃材(カンナ屑等)を活用した木片断熱材は、木質資源のカスケード利用や、住宅への炭素蓄積に貢献できる等の利点があるが、断熱性の指標である熱伝導率(λ)は建築用断熱材の中では最低ランクに留まっている。そこで本研究では、簡易な手法による断熱性能改善を目的として、印刷インキ等に用いられるカーボンブラック(以下、CBと記す)を小片に添加することで小片表面の物理的改質を期待し、それによるλの低減効果を調べた。初年度および2年目は、CBの種類と添加量をパラメータとして、密度の異なる数種類の小片マットに対してλを測定した。その結果、原料小片に対して重量比0.25%という微量添加においても、λは5~6%程度低下するという断熱性改善が認められ、断熱ランクは1段階向上することが明らかとなった。ただし、供試した実験室製小片は比重が揃った木材から調製され、かつ寸法がある程度揃ったものであり、実際の木材プレカット加工で生じる混合樹種かつ寸法が不揃いのカンナ屑とは性状が異なる。また、λ測定は寸法200mm×200mm×30mmの小型試験体を用いて行われた。そこで最終年度では、現実に工場から排出される小片を用いて実大サイズのカンナ屑マットを作製し、そのλを測定することでCB添加による断熱性改善を実用に近い状態で検証した。その結果、添加率0.25%という微量添加でもマットの熱伝導率は約14%低下し、実験室製小片を用いた場合の改善効果よりも大きな効果が認められた。さらに、CB添加による熱伝導率低下のメカニズムをマットの伝熱メカニズムの視点から考察した結果、断熱性改善の主たる要因として粗大空隙の伝熱特性の変化が示唆され、CB添加前後での表面性状の変化による対流伝熱や放射率の変化の定量化など、今後、検討すべき課題が整理された。
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