研究課題/領域番号 |
26450226
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
上田 一義 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40223458)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / セルロース / 溶解 |
研究実績の概要 |
本研究は、結晶構造の異なるセルロースの膨潤・溶解の機構を分子シミュレーションにより検討し、膨潤・溶解の制御の基礎知見を得ることによりセルロースのバイオリファイナリーへの応用に寄与することを目指すものである。セルロースは原料・エネルギー源としての期待が高いが、難溶解性であることが利用に向けての最大の問題点である。本研究では分子シミュレーションを用いて、実験のみでは困難なセルロースの膨潤・溶解機構を解明を分子レベルで明らかにすることを目的としている。 今年度は、平成26年度の研究計画に基づき、セルロースの4種の結晶形(I,II, III,IV型結晶)を用いて、連携研究者の実験結果を参考に分子シミュレーションを行い、セルロース結晶の膨潤・溶解挙動に関して分子シミュレーションによる再現が可能かどうかの基礎検討を行った。その結果、実験と同等の高圧熱水条件下における温度・圧力において、結晶の熱運動の時間変化を計算し、4種のセルロース結晶の膨潤・溶解の基本的な溶解の相違を観測することが出来た。実験ではセルロースIII型が最も容易に分解されたが、分子シミュレーションにおいては、この結晶が最も容易に溶解し、それぞれの結果に大きな相関があることが示された。すなわち、分子シミュレーションにおける溶解は、実験における分解の初期過程としてとらえることが出来、この観測により、結晶の分解機構を検討することが可能である。この結果は論文としてまとめ、この分野の主要雑誌である“Cellulose”誌に掲載された。また、各結晶におけるセルロース鎖間に存在する相互作用について、現在、量子化学計算による検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画にあるように、結晶形の異なる4種のセルロース結晶モデルを用いて分子シミュレーションの予備実験に続き、本格的に分子シミュレーションを行った。その結果はセルロースの4種の結晶形(I,II, III,IV型結晶)について、連携研究者の実験結果を良く再現するセルロース結晶の膨潤・溶解挙動が観測された。その結果は実験の連携研究者に伝えるとともに、論文としてまとめ、この分野の主要雑誌である“Cellulose”誌に掲載させることができた。従ってこの項目については計画以上の進展を見た。 また、各結晶におけるセルロース鎖間に存在する相互作用については、溶解に関係すると考えているグルコース環のC-H水素と側鎖カルボニル基酸素の間に働いているCH/O相互作用と溶解との関係を上記の分子動力学シミュレーションの範囲においては計画通り明らかにすることが出来たが、相互作用の強度については量子化学計算による定量化が望まれる。それについては現在、結晶の状態で平面波基底を用いた量子化学計算を行っており、現在解析中であるため、全体としては概ね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、セルロース結晶におけるセルロース鎖間に働く相互作用の強度についての量子化学計算を完成させ、セルロース各結晶における相互作用の結果を論文にまとめ公表する。その後、研究計画どおりに、まずは温度・圧力を変えて、定圧から超臨界状態まで条件を変化させて結晶の膨潤・溶解の過程を追跡したい。高温・高圧下では水分子の溶媒和も常温・定圧下とは大きく変わり、それらに注目しながらセルロース溶解の基本的な機構の詳細を明らかにする。温度・圧力について、結晶溶解の実験条件を連携研究者と共同で設置し、溶解機構と実験条件の最適化を行っていく予定である。
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