研究実績の概要 |
本研究は、結晶構造の異なるセルロースの膨潤・溶解の機構を分子シミュレーションにより検討し、膨潤・溶解の制御の基礎知見を得ることによりセルロースのバイオリファイナリーへの応用に寄与することを目指すものである。セルロースは原料・エネルギー源としての期待が高いが、難溶解性であることが利用に向けての最大の問題点である。本研究では分子シミュレーションを用いて実験のみでは困難なセルロースの膨潤・溶解機構の解明を分子レベルで明らかにすることを目的としている。 初年度の平成26年度では、セルロースの4種の結晶形(I、II, III,IV型結晶)の膨潤・溶解挙動に関して分子シミュレーションによる再現が可能かどうかの基礎検討を行ない、シミュレーションが実験の挙動を良く再現することを明らかにし、その結果は"Cellulose"誌に掲載された。続く、27年度と本年28年度の2年間の計画では、その挙動の解明をさらに進めるため、温度・圧力を室温・常圧から超臨界状態まで変化させて、さらに詳しく結晶の膨潤・溶解の過程を追跡すると同時に、結晶状態におけるセルロース鎖間の相互作用についても詳細に検討した。27年度は、特にセルロースIII型について、結晶の加熱による構造と相互作用の変化について平面波基底を用いた量子化学計算により明らかにし、成果を“Carbohydrate Research”誌に掲載した。今年度は、最終年度として、さらに、I型およびII型結晶について、その構造の詳細を明らかにするために、平面波基底量子化学計算により、結晶内での水素結合形成パターンを調べた。その成果は、現在“Carbohydrate Research”誌に投稿中である。
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