研究実績の概要 |
我が国で最も重要な造林樹種であるスギは,その心材含水率は個体間で大きくばらつくため,材の均質な乾燥が困難で,近年利用が拡大している乾燥材への対応に問題を生じている.しかし,そもそもスギ心材の含水率を決定する水の起源と移動経路,移動集積機構について十分には理解されていない.そこで本研究ではスギの心材に集積する水の移動経路,特に生細胞の内部を経由しないアポプラスティックな水移動経路を明らかにする事を目的とした. 平成26年度は既往の研究でも検討されてきた複数年輪を横断する放射方向の移動経路での定量的な水移動解析と酸性フクシン水溶液を用いた定性的な経路解析を行った.その結果,辺材および心材内での放射方向の水移動が起こること,一方で,放射方向の水移動には時間を要することが示唆された. 平成27年度は軸方向の水移動経路について検討するため,一定の樹高ごとに各年輪における辺材と心材の分布を把握し,辺材と心材の樹幹内分布について三次元で解析した.その結果,同一年輪において樹軸方向で辺材から心材に変化する事が明らかとなった.このことから,樹軸方向では経路上での大きな抵抗が予想される年輪境界を経由しない辺材・心材間の移動経路の可能性が示唆された. 平成28年度はスギの辺材と移行材,心材間および各組織内の液体の透過性を評価するため,放射方向及び軸方向から水を加圧ないし減圧注入し,マイクロフォーカスX線CTを用いて非破壊で水移動様式を解析した.その結果,放射方向の辺材から移行材への水移動は検出できなかった一方で,軸方向では移行材において水の移動がわずかながら認められたことから,放射方向と比較して軸方向の水移動経路の抵抗が小さく,同一年輪に樹軸方向で辺材,移行材,心材を含んだ場合に,辺材と心材との間で水の移動が起こり得ることが示された.
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