研究課題/領域番号 |
26450239
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研究機関 | 国立研究開発法人 森林総合研究所 |
研究代表者 |
松井 直之 国立研究開発法人 森林総合研究所, バイオマス化学研究領域, 主任研究員 (80353853)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 葉 / リグニン / DFRC法 / 葉脈 |
研究実績の概要 |
葉のリグニン含量の異なる3種の広葉樹、カツラ、コブシ、ブナの葉の成長期のリグニン量の変化をDFRC(Derivatization Followed by Reductive Cleavage)法により追跡した。いずれの樹種も4月の下旬から5月上旬にリグニン量の増加が観察され、共通して比較的短期間で葉へのリグニン沈着が起こることが示された。ここでシリンギル(S)型のリグニンが多く検出されたのはリグニン含量の最も多いブナの葉のみであったことから、葉の通道組織(葉脈)の最低限の木化に必須な要素としては基本的にグアイアシル(G)リグニンが働いていることが予想された。次に葉のリグニンの沈着場所を明らかにするため、ブナ葉を葉脈部分とその他の部分に解剖的および化学分解的に分画し、DFRC分析に供した。葉脈部のリグニンのS/G比は低くグアイアシル単位に富んでいたが、主要な葉脈を含まないその他の葉組織のリグニンは逆にシリンギル単位に富んでおり、全リグニン量も葉脈部分と同程度であることが示された。すなわち葉の大きな葉脈組織の無い部分にも相当量のリグニンが含まれていること、またそのリグニンは通道組織の強化に用いられるグアイアシルリグニンとは構造の異なるシリンギルリグニンが主体であることが判明した。これらの組織にシリンギルリグニンが多く含まれる理由は現在のところ不明であるが、通道組織のグアイアシルリグニンとは別の役割を有していることが予想された。この結果は葉のリグニンの機能について機械的強度付与に加わる新たな可能性を示したものであり、葉へのリグニン沈着の多様性の意味を考える上で興味深い知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
葉でリグニンが分布している組織として通道組織である葉脈部分への集中が予想され、実際にブナの主要な葉脈がグアイアシルリグニンに富んでいることが確認された。しかしながら葉脈以外の葉の組織がシリンギル構造主体のリグニンを持つことが判明するなど、葉に含まれるリグニンの役割として通道組織の強化以外の新たな可能性が示唆される結果が得られていることから、おおむね順調な進展として評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ブナの葉に含まれるシリンギルリグニンのはたらきとして、各種の環境ストレスに対抗するための機能を予想した。その実証のために光ストレス条件の異なる葉のリグニン量と、その組成の比較を行うことにより、条件の異なる葉でのリグニンの分布とその機能について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題の最終年度に研究業績を国際的に発表する場として第28回国際ポリフェノール会議を選定していたが、同会議が2016年の7月にウィーンで開催されることとなった。同会議の参加登録費が比較的高額であることに加えて、渡航のための航空便の運賃が高い時期にあたるため、28年度の予算執行予定に支障が出ないように次年度使用額として措置した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については第28回国際ポリフェノール会議への参加のための参加登録費、ならびに海外旅費その他の経費に充当する予定である。これにより28年度の予算執行予定への支障を無くし、物品購入の他、国内の学会への出張旅費、論文投稿のための諸経費などの成果発表に関する予算を充実させる。
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