アマモの種子発芽と初期成長の生理メカニズムの解明を目的に、以下の①から④の解析を行った。 [①アマモ遺伝子の発現解析]2016年にアマモのゲノム情報が公開されたため、これまで解析してきた遺伝子との比較を行った。若干の塩基配列の違いはあったが、公開されたゲノム情報は日本産のアマモにも適用可能と判断された。また、遺伝子ファミリーの情報が得られたため、これらの発現解析を進めた。本研究を通して、ストレス応答や植物ホルモンに関連する約230の遺伝子を解析できた。 [②アマモ遺伝子の機能解析]アマモ遺伝子を組換えたシロイヌナズナについて、おもに塩耐性と低酸素耐性を解析した。新たに1遺伝子について、遺伝子組換え体が高塩濃度や低酸素に耐性を示した。また、別の2遺伝子について、組換え用ベクターの改変を進めた。本研究を通して、少なくとも2遺伝子が塩耐性や低酸素耐性に関与することが明らかになった。 [③種子発芽と初期成長における環境要因の解析]白色光、赤色光、青色光、遠赤色光の応答性について解析した。白色光、赤色光、青色光下では、暗黒下に比べて幼葉鞘の伸長が抑制され、第一葉の出芽が促進された。遠赤色光下では、暗黒下と同様に幼葉鞘の伸長が促進されたが、第一葉の出芽も白色光、赤色光、青色光下と同様に促進された。これらの結果から、アマモにも赤色光と青色光の応答性は存在するが、遠赤色光の応答性は特殊であると考えられた。 [④アマモ場造成での生育管理技術の開発]①から③の結果をアマモ場造成に応用するため、都市海域でのアマモの育成実験を行った。低率ではあるが1年間を通した育成に成功した。一方、底質の泥やヘドロ、低透明度による光量の減少、夏期の水温上昇、河川水による低塩分などが生育阻害のおもな原因と考えられた。特に、光量の減少の影響は大きく、光を量的・質的に調整してアマモの育成を調節できる可能性が高いと判断された。
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