ウニが優占する磯焼け場が国内外の沿岸で拡大している。その原因として、海外ではウニの捕食者の乱獲がウニの大量発生を招き、その結果海藻の過剰摂食を引き起こすという栄養カスケード仮説が全面禁漁区での研究により検証され、広く受け入れつつあるが、国内ではそのような報告事例はない。本研究では温暖化が進み、ウニの磯焼け状態が蔓延化している高知県沿岸で特異的に大規模な藻場が維持されている禁漁区とその周辺対照区との比較研究により栄養カスケードによる藻場形成・維持効果を明らかにする。昨年度までの研究により係留ウニ(重りに釣り糸で繋ぎ止めたウニ)の死亡率が、イセエビの隠れ場となっている禁漁区内の造礁サンゴとその近傍で、他の場所に比較して顕著に高くなることを示したが、死亡の原因がイセエビの捕食によるものかは明らかにできていなかった。本年度は禁漁区と対照区でウニ(ツマジロナガウニとムラサキウニ各2サイズ群2個体ずつ、合計8個)の係留実験を行い、係留ウニは禁漁区でのみ捕食され、また新たに開発した比較的広い面積(1×0.7m)を昼夜連続インターバル撮影できる装置を用いて、禁漁区での係留ウニのすべてがイセエビによって捕食されたことを確認した。禁漁区と対照区との底生生物相の差を明らかにするため、禁漁区と東西両側の対照区でも側線調査を行い、禁漁区内では特にイセエビの隠れ場の近くでウニの密度が低く、ホンダワラ類などの大型海藻が深所(6m)まで比較的高い被度で生育していたのに対して、対照区ではウニの密度(特に浅所ではムラサキウニ、また深所ではナガウニ類)が全体的に高く、大型海藻の分布は大部分の側線でほぼ1m以浅に限られることを確認した。ウニは禁漁区内で大型化する傾向があり、特にイセエビの隠れ場の近くでは大型のムラサキウニが比較的多く見られ、イセエビによるウニ捕食に関する水槽実験の結果に一致した。
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