研究実績の概要 |
日本の漁業権管理などに代表される地域コミュニティにもとづく水産資源管理では,単なる経済合理性のみならず,コミュニティ内での漁業者相互の人的付き合い等における心理的要素が,資源管理に対する協力/非協力行動の選択に大きく影響すると考えられる。そこで本研究では,水産資源管理への協力行動の進展に及ぼす漁業者の心理的要因を特定することを目的として,コミュニティ主体の資源管理を実施している日本国内の12地区の漁業協同組合に所属する漁業者を対象に,5件法,28質問項目のアンケート調査を実施した。質問項目は,地元の水産資源の状態,資源管理,過剰漁獲,地域社会における人間関係,消費者の態度などに関して漁業者の意見を問うものとした。この調査によって合計296名からの回答データを得て,解析に供した。因子分析で抽出された4因子をもとに共分散構造分析を行った結果,資源管理への協力意識は「地元地区および漁業への関心」と「乱獲および外部の評価への関心」によって促進され,「利己心」によって低下することが示唆された(GFI = 0.864,AGFI = 0.833,RMSEA = 0.072)。この結果は,コミュニティの内と外の両方からの心理的圧力が存在した場合に資源管理に対する協力行動が促進されるとする社会-生物経済カップリングモデルの結果(Furuzono et al., 2013)を裏付ける。数学的モデリングと心理学的データ分析が互いに補完的であり,結論を補強するのに有効であることが示された。
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