研究課題/領域番号 |
26450268
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡邊 俊 日本大学, 生物資源科学部, 研究員 (60401296)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ニホンウナギ / 内部潮汐 / 環境DNA / 産卵地点 / ポップアップタグ / 日周鉛直移動 / 産卵回遊 / 回遊行動 |
研究実績の概要 |
1. なつしま航海(NT15-08:2015年5月5日~22日) ニホンウナギの親魚が西マリアナ海嶺南端部で産卵する地点をより狭い範囲に絞り込むことを目的とし、以下の2つの新たな方法を試みた。 (1) 2015年5月の産卵日と推定される期間(5月14日~18日)、数値シミュレーションによって西マリアナ海嶺南端部における内部潮汐エネルギーの分布を推定した。西マリアナ海嶺と5月の塩分フロントの交点の第3象限に最も近い内部潮汐のエネルギーの高い場所を推定産卵地点とし、漂流系水中カメラシステム(UNA-CAM)を投入し、本種の産卵行動の観察を行った。 (2) 産卵前に親魚が西マリアナ海嶺と塩分フロントの交点に集まってくる様子を環境DNAの手法を用いて探知できるかを試した。9定点において表層から1000mまでの各100m間隔による採水を行い、各層2000mlの海水を濾過し、濾紙を-20℃で保存した。濾紙は研究室へ持ち帰り、濾紙から全DNAを抽出し、リアルタイムPCRを用いて本種のDNAの有無を検討した。 調査期間中、2つの台風が産卵場に居座り、わずか2日間(5月19~21日)のみの調査しかできず、当初の計画を実行することができなかった。しかしながら、400m層において親ウナギの反応らしきものを探知できた(現在、詳細を解析中)。 2. ポップアップタグを用いた親ウナギの産卵回遊経路の推定 2014年10月に利根川と三河湾で採集した天然の降りウナギ計3尾(全長:852-955mm)にポップアップタグを装着し、2014年12月10日~12日の夜に北海道大学水産学部の練習船「おしょろ丸」から小笠原諸島西方海域の3地点で放流した。得られたデータ解析の結果、ニホンウナギは回遊途上の外洋でも明瞭な日周鉛直移動を行っており、その遊泳水深の上限と下限には光と水温が制限要因になっていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つの台風の影響にて、なつしま航海(NT15-08:2015年5月5日~22日)を当初の計画通りに遂行することができなかった。しかしながら、西マリアナ海嶺と塩分フロントの交点の近辺にて内部潮汐のエネルギーの高い地点を数値シミュレーション(26年度の研究結果)で推定し、そこを産卵地点として調査海域にすることができたこと、また、環境DNAにより親魚の行動と集合を把握しようと試みたことは、航海における新しい展開となった。今後、更なる改良を重ね、この内部潮汐シミュレーションと環境DNA法を合わせて産卵地点を予測すれば、ニホンウナギの産卵シーンを発見する確率が飛躍的に高くなるものと考える。 ポップアップタグを用いた親ウナギの回遊行動では、産卵回遊の途上である外洋においても規則正しい日周鉛直移動が見られ、またその制限要因の解明により、ニホンウナギの産卵回遊の一端が明らかとなった。これらの得られた知見は、本種の完全養殖技術の確立に貢献すると考える。
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今後の研究の推進方策 |
以下の成果を学会および学術論文にて公表する。 (1) 内部潮汐 ニホンウナギの主要産卵日と推定される新月3日前の内部潮汐の数値シミュレーション(Niwa & Hibiya 2014)結果から、過去3航海(KH-09-2, KH-11-6, KH-12-2)において卵とプレレプトセファルスが採集された地点付近では、内部潮汐エネルギーの強くなっていることが確認された。これらの地点は、いずれも卵が採集された定点の上流に位置し、それぞれの新月期でこれらの地点が産卵地点に用いられたと推定した。これらの地点に共通する地形的特徴は、東に断層、西側にポケット状の湾が存在することである。以上の結果から、ニホンウナギの産卵には特徴的な海底地形により増幅された内部潮汐が何らかの役割を果たしているものと推察する。 (2) なつしま航海(NT14-09) 本航海において、ニホンウナギの卵(3個)と4月生まれのレプトセファルス(8個体)が採集されたことは、この場所が4月と5月の両月にわたり産卵地点として利用されたと推定できる。また、西マリアナ海嶺の最南端部において数多くの孵化仔魚(250個体)の採集に成功した事実は、この海域も5月の産卵地点に用いられたことを示し、5月には少なくとも2つの産卵地点が形成されたと推定した。同時期に複数の産卵地点が形成されることは本種の産卵回遊生態に関して新しい知見となった。 (3) ポップアップタグを用いた親ウナギの産卵回遊行動 日本沿岸域、小笠原西方海域、西マリアナ諸島西方海域でそれぞれ放流された天然の降りウナギの行動を比較検討し、相違点を調べ、本種の産卵回遊行動を明らかにする。 以上を総合し、ニホンウナギの産卵場へ向かう回遊行動と産卵地点の時空間的特性を明らかにし、本種の産卵回遊生態を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度のなつしま航海(NT15-08)が計画通りに出来なかったため、その後の実験や解析で考えていた物品を購入しなかった点が主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は研究環境も変わり、新たな物品費や人件費などを計上する予定である。よって昨年度から今年度に回した研究費は、これらに使用する。
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