研究課題/領域番号 |
26450269
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高木 力 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (80319657)
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研究分担者 |
米山 和良 鹿児島大学, 水産学部, 助教 (30550420)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マグロ / まき網 / ICT / 漁獲過程 / 行動解析 |
研究実績の概要 |
本研究はカツオ・マグロ類を対象としたまき網(旋網)漁業における漁獲メカニズムを,漁具の水中動態コンピュータシミュレーション解析技術ならびに魚類の3次元行動解析技術を統合することにより解明し,当該漁業での漁獲過程をこうした新しい技術を用いて分析し,効果的な漁業技術の最適化方策に資することを目的としている。本年度は漁獲対象個体の3次元的な詳細行動を把握するため,推測航法技術(以下DR)を応用することにより,まき網操業時の個体の3次元行動軌跡構築を行なうことを目的に以下に示す結果を得た。1,速度,深度,方位センサーと搭載したマルチセンサデータロガーを用いて個体の3次元行動軌跡を取得する方法は分解能の高い行動情報が取得できるが誤差が蓄積するという特性がある。一方,超音波発信器と受波器を用いて個体位置を推定する手法は高精度に位置推定ができるが,時間的に疎な位置推定しかできない。本研究では両者の特徴を活かし,超音波による推定位置間の行動軌跡をDRを適用して補完することにより個体の3次元行動軌跡を高精度に取得するハイブリッド法を水生動物の3次元行動軌跡取得のために新たに開発した。2,ハイブリッド法を漁獲対象種であるメバチの個体行動把握に適用したところ,15分間の詳細な3次元行動軌跡を取得することができた。個体は放流後,急速なダイブを行い,操業過程中に本船近くに接近する行動を示した。3,超音波発信器を用いた位置推定はDRによる推定軌跡を補正するために用いるが,これは数分間隔という時間オーダーであっても,DR蓄積誤差の除去に効果的であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,推測航法技術(Dead-Reckoning)を応用して,まき網漁獲過程におけるマグロ類の個体の3次元行動を詳細に把握する技術開発と,これを用いた実操業時における個体行動軌跡取得を目標として掲げていた。DR技術は既に報告者等によりその実用性は検証されているが,前年度に先行的に実施された評価実験から,誤差が蓄積されるという欠点があることからその精度向上が課題となっていた。この問題を解決するため,新たに超音波発信器を用いて確度の高い個体位置を推定するシステムを導入し,これをDR技術と併用することで,DRの蓄積誤差を個体位置推定システムにより解消することを実施した。両技術を併用したこのハイブリッド法は事前の精度検証で実際の行動軌跡を高い精度で構築することを可能とすることが明らかとなった。これにより当初目標としていた個体行動の3次元軌跡の取得技術の開発は実現させることができた。しかしながら,ハイブリッド法では,操業時の環境雑音等が位置特定に必要とする音響信号の受信を妨げる問題が出て来たため,来年度にはこうした問題にも対応し,より精度の高い計測システムの構築を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は漁獲対象種の自由遊泳時における3次元行動軌跡を取得する計測システム構築の実現を主要な研究項目の課題としてあげ,推測航法技術と超音波による位置推定技術を併用し,遊泳軌跡の高精度化を図ることに成功した。試験的に行ったメバチ個体への装着実験では詳細な行動軌跡の取得を達成できたが,操業時の環境雑音が音響信号の受信を妨げている可能性があり,これらの対応方策が求められる。個体への装着実験をさらに実施しシステムの精度向上を図りたい。そのためには,実際のまき網操業時における個体装着実験の他に,閉鎖空間内における生物行動計測を併せて実施し,計測系の脆弱性を明らかにする予定である。また,カツオ・マグロ類漁業における生物混獲も問題となっていることから,こうした問題も視野にいれながら,漁獲過程の解明に向け効果的な実験検証を実施する予定である。本研究については,フランス海洋開発研究所の研究者が漁獲過程時の生物行動計測に強い関心を抱いていることから,本研究に関連する内容を協働して行うことも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,漁獲対象種の行動計測実験を実海域でのフィールドワークを通して実施する内容となっており,国内外でのフィールド実験・調査等は欠かすことがきないものとなっている。国内外調査旅行が当初予定されていた期間・回数よりも多くなることが当該年度実施期間中に予想されたことから,旅費以外の直接経費執行を相対的に抑制していたが,年度末に実施予定の国外実験調査が取りやめとなり,次年度(平成28年度)に実施することとなった。次年度使用額が生じた主な理由はこのことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の国外実験調査は平成28年度に実施予定であることから,平成27年度における次年度使用額はこの実験調査のための旅費に充当させる計画である。
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