本研究では,ヒスタミン産生菌であるMorganella morganiiに対して特異的に感染するバクテリオファージFSP1の食品での有効性の評価を最終目標とした。液体培地中でのFSP1のM.morganii殺菌能に及ぼす温度と処理ファージ濃度の影響を調べた。FSP1はM.morganiiが発育しない4℃でも接種ファージ量を7 logPFU/ml以上とすると,M.morganiiの生菌数を減少されられることを確認した。処理ファージ量の検討から,8 logPFU/gで処理した時に試験期間を通じて最もM.morganiiの生菌数が少なくなることを明らかにした。実際の食品(マグロ魚肉)におけるFSP1によるM.morganiiによるヒスタミン蓄積抑制効果を検討し,M.morganii低汚染モデル(3 logCFU/g接種)および高汚染モデル(5 logCFU/g接種)のいずれにおいても,M.morganiiの初発汚染菌数を大きく減少させられることを見出し,またその後の保存中のヒスタミン蓄積量を大きく抑制できることを確認した。特に,食品での汚染量に近い低汚染モデルでは,FSP1処理によってM.morganiiの生菌数が検出限界未満(<2 logCFU/g)まで減少し,ヒスタミンの蓄積が大きく遅延することを見出した。さらに,ファージ処理後の食品でのFSP1耐性M.morganiiの出現の有無を確認するため,ファージ処理した食品からM.morganiiを再分離し(114株),FSP1に対する感受性を調べ,耐性菌のないことを確認した。したがって,本研究で新規に分離したファージFSP1は,魚肉におけるM.morganiiによるヒスタミン蓄積の制御に有効なファージであることが証明され,水産食品のヒスタミン蓄積抑制にファージの利用が有効な手法となり得ることを明らかにした。
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