研究課題/領域番号 |
26450279
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
工藤 秀明 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (40289575)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | サケ / 母川回帰 / 刷込 / 嗅覚 / 脳 / トランスクリプトーム / 次世代シーケンサー / 記憶 |
研究実績の概要 |
本研究では,北日本の重要水産物であるサケ(シロザケ Oncorhynchus keta)の母川刷込前後や産卵遡上時の母川のニオイを想起する前後に脳内で発現が消長もしくは大きく変化する分子群を次世代シーケンサー (NGS) を用いた網羅的な遺伝子発現解析により同定し,その各分子について脳内における時空間的に詳細な発現解析を行い,母川刷込形成の脳内における分子機序を明らかにすることを目的としている。2年目である平成27年度は,初年度にNGSによるトランスクリプトーム解析で得られた母川想起を行う産卵遡上時の嗅覚中枢(嗅球+終脳)で発現している226,232個のコンティグの解析を行った。その中で,母川想起に関係が低いと想定される外洋索餌回遊個体より,想起中と推定される沿岸の母川遡上前および下流域の母川遡上中の個体で2倍以上高い相対的転写物濃度 (FPKM値)を示した配列は550個,10倍以上高い同値を示した配列は96個であった。遺伝子情報データベースによる既知遺伝子との相同性検索から類推されるその96配列の機能は,6配列が情報伝達,21配列が細胞骨格を含む細胞成分,8配列が細胞増殖・分化,8配列がイオン輸送,17配列がその他の機能および機能類推不可能な未知のものが36配列であった。選抜された情報伝達関連のコンティグには,情報伝達物質の受容体を含む記憶関連分子が含まれていた。そのうち母川想起関連候補分子として,γ-アミノ酪酸 (GABA) 受容体およびアセチルコリン受容体の相対発現量を定量PCRにより検出し,実際の発現を確認した。その結果,GABA受容体についてはFPKM値の挙動と一致していたが,アセチルコリン受容体は一部相違が認められた。また,春季に母川刷込を行う降海時の幼稚魚の嗅覚中枢を採集し,NGSによるトランスクリプトーム解析で平均リード数45,898,780の配列が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ応募書類の計画スケジュール通りに進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度中に得られた母川刷込を行う降海時の幼稚魚嗅覚中枢で発現している配列のFPKM値による発現動態を解析し,母川刷込関連候補分子を選抜する。さらに,定量PCRにより実際の発現状況を解析し,より刷込に関わる分子の絞り込みを行う。ここまでで示された母川刷込関連および母川想起関連分子について,NGSに用いた個体より,より細分化した時期の個体を用い,さらに局所レベルでの発現も把握することで両分子の母川刷込への関与を詳細に明らかにする。また,両時期のNGS解析で得られた遺伝子配列はサケ嗅覚中枢ESTデータベースとして整備し,本研究の評価法によるスクリーニングで選抜されてかなかった既知の神経関連分子や未知の遺伝子についても発現解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の見直しにより「リアルタイムPCR」装置による分析を最終年度から繰上、平成27年度中から開始するために70万円の前倒しを行い、「リアルタイムPCR」装置を導入して分析を開始したが、新たに予定した分析が年度を跨いで継続中のため、分析に必要な追加の遺伝子試薬分の消耗品経費が、次年度に繰り越されている。
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次年度使用額の使用計画 |
継続中の「リアルタイムPCR」装置による分析に用いる遺伝子試薬の追加購入費用として使用する。
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