研究課題
多くの魚類の卵母細胞内には、中性脂質が油球として多量に蓄積される。この卵母細胞における油球形成機構は殆どが不明であったが、最近の我々の研究により、油球となる脂質の供給源が血液中のリポタンパク、特に超低密度リポタンパク(VLDL)であり、さらにVLDLは卵母細胞外で代謝され、それによって生じた遊離脂肪酸が卵母細胞に取り込まれることが示唆された。しかし、VLDLを起点とした油球形成機構の詳細は未だ不明な点が多い。そこで本研究は、サケ科魚類(カットスロートトラウトとサクラマス)やヨウジウオ、ゼブラフィッシュを主な実験魚として使用し、魚類の卵母細胞における油球形成機構について分子レベルで解明することを目的としている。本年度は、先ずカットスロートトラウトとサクラマスの卵濾胞培養系を用いて、卵母細胞への超低密度リポタンパク(VLDL)からの脂質取り込みにおけるリポタンパク質受容体の関与について調べたところ、2種類のリポタンパク質受容体の関与を示唆する結果が得られた。このことから、卵濾胞におけるVLDL代謝にリポタンパク受容体が何らかの役割を担っていることが初めて示唆された。ヨウジウオの卵巣から、VLDL代謝に重要な働きを持つリポタンパクリパーゼ(LPL)の遺伝子をクローニングし、卵濾胞におけるその発現を解析した結果、LPL遺伝子は主に顆粒膜細胞で発現していた。このLPL遺伝子の発現パターンは、サケ科魚類での結果と同様であることから、ヨウジウオにおいてもサケ科魚類と同様の機構で油球が形成されることが示唆された。一方、卵母細胞内に油球が形成されないゼブラフィッシュにおいて、同様にLPL遺伝子の発現を解析したところ、卵濾胞中に明瞭な発現が認められなかった。従って、魚類の卵母細胞内での油球形成においては、卵濾胞でのLPLの存在かつ働きが非常に重要であることが改めて示唆された。
2: おおむね順調に進展している
用いた実験系の殆どは既に確立されていたため、本年度に予定していた計画のほぼ全てを順調に進めることができた。
来年度(平成27年度)も引き続き、サケ科魚類の培養卵濾胞と蛍光標識VLDLを用いた油球形成機構解析システムを用いて、詳細な解析を進める。先ずは、卵成長・VLDL代謝・脂質代謝に影響を及ぼすことが予想される各種ホルモンの影響を調べる。また、VLDLから卵母細胞内へ脂質が取り込まれる過程に働くと予想される分子(リパーゼやリポタンパク受容体、脂肪酸受容体、脂肪酸輸送体など)について特異抗体を作製し、それらの分子をタンパクレベルで解析する。さらに、ヨウジウオやゼブラフィッシュにおいても、LPL以外の各種油球形成関連分子の発現解析を行う。
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