研究課題
26年度は北海道で申請者らが自ら捕獲、実験が可能なクリガニの尿中にNAGLが含まれるかどうかを検証した。延べ370個体の脱皮前後のメスのクリガニを用い、脱皮前17日目から脱皮後12日までの個体から尿を採集し、1次元NMRにより、それぞれの試料中のNAGLの濃度を測定したところ、クリガニの尿中にもNAGLが含まれることが明らかとなった。NAGLの濃度は脱皮前一週間以内で最大となり、脱皮後、徐々に減衰し、脱皮から遠い個体では検出限界以下となった。一方、採集可能な尿量は脱皮前一週間以内で最低となり、脱皮後増加した。この濃度と尿量のデータをもとに、メスが尿中に放出しているNAGLの量を算出したところ、放出総量が最大になるのは脱皮後一週間以内であることが明らかとなった。また、脱皮から遠い個体から採集された尿にはNAGLが含まれていなかった。これらの成果はブルークラブ以外の甲殻類の尿中でもNAGLが脱皮前バイオマーカーとして存在することを初めて示す意義のあるものであり、種を超えた普遍性を示唆するものである。クリガニもブルークラブと同様に成熟メスの脱皮の前にオスがメスを抱える交尾前ガードを行い、脱皮直後に交尾を行う種であり、脱皮前後のメスの尿がオスの抱きつき行動をひきおこすことが明らかとなっている。これらのことから、クリガニのメス尿中の性フェロモンの構成成分の一つとして、NAGLが含まれると推測され、本種のフェロモン研究上も重要な結果である。
2: おおむね順調に進展している
クリガニの尿中でもNAGLが脱皮前バイオマーカーとして存在していることを確認した。この発見は、ブルークラブ以外の甲殻類でこのことを確認する初めての例であり、NAGLがカニ類で普遍的な脱皮前バイオマーカーとして存在する可能性を支持する。以上、本研究課題の主目的を達成した。今後は他の種と化合物について検証を進める。
今後も計画に沿って進めていく。イセエビ、ケガニ、オオバウチワエビの脱皮前の尿を採取しNAGLの存在の検証をを進めるとともに、ブルークラブ尿中の未同定成熟メス特異的分子の同定を行う。また、各バイオマーカーの産生器官を特定するために触角腺、皮膚組織、脱皮液などの試料を採取しバイオマーカーの定量を行う。最後にバイオマーカーにフェロモン活性があるかどうかを行動試験で検証する。
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Journal of Experimental Marine Biology and Ecology
巻: 463 ページ: 115-124
10.1016/j.jembe.2014.11.008
Journal of Experimental Biology
巻: 217 ページ: 1286-1296
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