現在までカニ類のみを対象に脱皮前後の尿中のNAGL濃度の検証を行ってきたので、その他の甲殻類の代表として水産学上の重要種であるイセエビの脱皮前後の尿中のNAGLの濃度の測定を行った結果、検出されなかった。この結果から考えられる一つの仮説は、NAGLがカニ類の脱皮前後の尿中にのみ高濃度で存在することである。このことはNAGLがフェロモン成分である可能性を支持するものであるが、しかしながら、脱皮直前と考えられる個体からは尿が採集しにくかったため、今後、試料の数を増やすなどして慎重に再確認を行う必要がある。NAGLの他の組織中での濃度はNMR法の感度の問題もあり、達成できなかった。今後LC-MSを用いた高感度測定法の開発し、各組織中の濃度を測定する必要がある。また、NAGLグラファイトカーボンカラムにフェロモン活性の一部が保持されていることを行動実験で確認した。グラファイトカーボンでの保持、溶出条件の検討は逆相カラムに保持されないNAGLをモデル化合物として行ったが、その過程でNAGLがクロマトグラム上で互変異体の混合物として存在することが示唆された。そこで、NAGLの尿中での存在状態の検証を行った。各種水溶液中のNAGL標準試料と尿中のNAGLに相当する天然物の存在状態を核磁気共鳴装置と質量分析器で検証した結果、尿中ではNAGLのラクトン環が加水分解されて開環し、カルボン酸の状態で存在することが示唆された。この知見は、受容体タンパク質とNAGLの結合状態を考察する上で重要である。
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