研究課題/領域番号 |
26450283
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
柿沼 誠 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60303757)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 紅藻 / スサビノリ / 尿素 / 輸送体 / 窒素代謝 / DUR3遺伝子 / 色落ち / 施肥 |
研究実績の概要 |
スサビノリ葉状体は無機態窒素と同様に,尿素を効率よく代謝することが知られている.これまでに,スサビノリの尿素代謝に関わる3種類の尿素輸送体遺伝子(PyDUR3.1/3.2/3.3遺伝子)を単離・同定し,葉状体および糸状体における各PyDUR3遺伝子の発現特性や,PyDUR3アイソフォームの細胞内動態の一端を明らかにした.本年度は,各PyDUR3遺伝子発現調節機構とPyDUR3アイソフォームの細胞内機能を明らかにするために,全体の研究実施計画(3)および(4)に該当する以下の研究を行った. 研究実施計画(3)酵母発現系を利用したPyDUR3アイソフォームの細胞内機能解析 細胞内動態解析に用いた緑色蛍光タンパク質(GFP)融合PyDUR3発現ベクターをDUR3遺伝子欠損酵母に導入し,得られた形質転換酵母を各種窒素化合物(無機態窒素源や尿素)含有培地で生育させて遺伝子相補試験を行った.その結果,PyDUR3アイソフォームの酵母内発現は観察されたものの,明確な遺伝子相補結果は得られなかった. 研究実施計画(4)PyDUR3遺伝子上流領域の塩基配列解析による転写調節機構の解明 スサビノリ葉状体から抽出・精製したゲノムDNA(gDNA)を用いて,GenomeWalkerライブラリー(GWL)を構築した.GWLを鋳型とし,各PyDUR3遺伝子特異的PCRプライマーを用いてPCRを行い,各PyDUR3遺伝子上流領域をコードするgDNAのクローニングを行った.その結果,PyDUR3.1およびPyDUR3.3遺伝子についてはそれぞれ,約3 kbpおよび0.8 kbpの遺伝子上流領域の塩基配列を決定することができたが,PyDUR3.2遺伝子についてはPCRによるgDNA断片の増幅がみられなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,スサビノリの窒素代謝や貧栄養環境下における生存戦略に重要な役割を果たしていると考えられる3種類の尿素輸送体遺伝子(PyDUR3.1/3.2/3.3遺伝子)の転写調節機構,PyDUR3アイソフォームの細胞内機能特性とスサビノリ窒素代謝の分子メカニズムとの関わりを明らかにすることを目的としている. 本年度は全体の研究実施計画のうち(3)酵母発現系を利用したPyDUR3アイソフォームの細胞内機能解析,(4)PyDUR3遺伝子上流領域の塩基配列解析による転写調節機構の解明,を実施した.研究実施計画(3)については,酵母用PyDUR3発現ベクターとDUR3遺伝子欠損酵母を利用して遺伝子相補試験を行ったが,明確な遺伝子相補結果は得られなかった.この原因として,酵母内で発現させたGFP融合PyDUR3の融合GFP部分が,PyDUR3の本来の機能を阻害したことが考えられた.研究実施計画(4)についてはほぼ計画通りに研究を進め,各PyDUR3遺伝子上流領域のクローニングに必要なGWLを構築することができた.しかしながら,PyDUR3.2遺伝子については上流領域をコードするgDNAクローンを単離するには至らず,PyDUR3.3遺伝子についても転写調節機構の解明に必要な上流領域の塩基配列情報を得るには至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
全体の研究実施計画(3)酵母発現系を利用したPyDUR3アイソフォームの細胞内機能解析を進めるために,酵母用PyDUR3発現ベクター(GFP融合なし)を改めて構築し,DUR3遺伝子欠損酵母に導入して遺伝子相補試験を行う.また,研究実施計画(4)PyDUR3遺伝子上流領域の塩基配列解析による転写調節機構の解明を進めるために,十分な遺伝子上流領域の塩基配列情報が得られていないPyDUR3.2およびPyDUR3.3遺伝子について,引き続きGWLを利用してgDNAクローニングを行う. 次年度(最終年度)に予定している研究実施計画(5)メタボローム解析によるスサビノリ尿素代謝機構の解明と分子マーカーの特定,については当初の計画通りに進め,種々の条件で培養調製したスサビノリ葉状体(健全,色落ち,尿素施肥による色落ち回復など)のメタボローム解析を行う.メタボローム解析結果とこれまでの研究結果から,スサビノリ葉状体の尿素代謝機構,PyDUR3アイソフォームの機能特性と尿素代謝特性との関連性を明らかにすると共に,スサビノリ葉状体の生理状態(色落ち発症や色落ち回復など)の把握・評価に有効な分子マーカー(代謝物質マーカー)を同定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に実施した全体の研究実施計画(3)酵母発現系を利用したPyDUR3アイソフォームの細胞内機能解析において,予定していた遺伝子相補試験を行うことができなかった.また,研究実施計画(4)PyDUR3遺伝子上流領域の塩基配列解析による転写調節機構の解明において,一部PyDUR3遺伝子については遺伝子上流領域をコードするgDNAクローンを単離することができなかった.このため,酵母用培地関連試薬やPCR関連試薬の購入,遺伝子特異的PCRプライマーの合成に必要としていた消耗品費に残額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
全体の研究実施計画(3)酵母発現系を利用したPyDUR3アイソフォームの細胞内機能解析と(4)PyDUR3遺伝子上流領域の塩基配列解析による転写調節機構の解明,を継続して進めるために次年度直接経費の約20%を使用する. 次年度に予定している研究実施計画(5)メタボローム解析によるスサビノリ尿素代謝機構の解明と分子マーカーの特定,を進めるためのメタボローム解析とそれに必要な消耗品の購入に,次年度直接経費の約65%を使用する.また,次年度直接経費の約15%を学会発表等の旅費に使用する.
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