平成28年度は,有毒渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseから我々が単離した低分子RNA(sRNA)への結合成分の有無を詳細に検討するために,34および35塩基で構成されるsRNAにつき,DIG標識した合成sRNAおよび細胞抽出物を用いてゲルシフトアッセイを行った.その結果,35塩基のsRNAではsRNAの移動が認められなかったものの,34塩基のsRNAではsRNAのみの場合と比較して,一部の合成RNAが低分子側に移動するとともに,一部のsRNAが高分子側に移動する結果と,シグナルが消失する結果が得られた.本結果は,34塩基のsRNAが細胞抽出物中に存在した成分と結合して構造が変化し,低分子側に移動した可能性,および他の成分と結合して高分子側に移動した可能性を示した.さらに,A. tamarenseがsRNAを利用した遺伝子発現機構を有するか否かを確認するために,既報の生物種でRNAサイレンシングに関与するタンパク質として報告されている,ArgonauteをコードするcDNA断片の増幅をPCR法で試みた.増幅されたDNA断片の塩基配列を決定した結果,piwiドメインをコードすることが確認出来たことから,本mRNAにつき,RNAドットブロット解析を試みたものの,シグナルを得ることができなかった.したがって,A. tamarenseもsRNAを利用した遺伝子の発現調節機構を有するものと推測されるが,mRNA量は少ない可能性が示唆された. さらに,A. tamarenseの転写因子結合配列を明らかにすることを目的として,本種から既に単離している遺伝子の推定5’上流非転写領域および転写領域を含む標識二本鎖DNAと核抽出物とを用いたゲルシフトアッセイを行った.その結果,標識DNAの高分子側への移動が確認できたことから,使用した領域に転写因子が結合する可能性が示唆された.
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