研究課題/領域番号 |
26450290
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
為我井 秀行 日本大学, 文理学部, 教授 (90293034)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 亜硝酸塩還元酵素 / c型シトクロム |
研究実績の概要 |
嫌気かつ硝酸塩存在下で培養したPseudomonas sp. MT-1菌体を破砕し、超遠心分離によって得られた可溶性画分から、イオン交換クロマトグラフィー、硫安分画、ゲル濾過などによってシトクロムcd1型亜硝酸塩還元酵素の精製を試みた。しかし本タンパク質は不安定で、精製過程で明らかに可視吸収スペクトルの変異が起こり、変性してしまった。グリセロールのような保護剤の使用、プロテアーゼ阻害剤の使用によっても状況は改善されなかった。 また上記の実験の中で、可溶性画分からc型シトクロムが精製された。N末端のアミノ酸配列を解析し、解析済みであるゲノム情報と照合することにより、このc型シトクロムは、亜硝酸塩還元酵素関連のタンパク質をコードするnir遺伝子クラスター中のnirM遺伝子産物(NirM)であることが明らかとなった。 還元型NirMは、嫌気かつ硝酸塩存在下で培養したPseudomonas sp. MT-1菌体から得られた可溶性画分によって、酸素存在下で急速に酸化された。可溶性画分には亜硝酸塩還元酵素以外にはc型シトクロムから酸素へ電子を伝達する酵素は存在しないと考えられるので、NirMが亜硝酸塩還元酵素への生理的電子供与体であることが示された。一般的にはアズリンと呼ばれる銅タンパク質も亜硝酸塩還元酵素への電子供与体となることが知られているが、本細菌のゲノム中にはアズリン相同タンパク質をコードする遺伝子は見いだされなかった。したがってNirMが主要な電子供与体であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はPseudomonas sp. MT-1からの亜硝酸塩還元酵素の精製と電子供与体の同定を行う予定であった。 酵素の精製は、その不安定さのため、現在のところ保留となっている。シトクロムcd1型亜硝酸塩還元酵素は通常それほど不安定な酵素ではなく、かつ特徴的な分光学的性質を示すため、比較的容易に精製できると考えていたが、本細菌の酵素は予想外に不安定であった。一般的に好冷菌の酵素は不安定である。本細菌は好冷菌ではないが、低温にある程度適応している。本実験の結果は、本細菌の低温適応の一端を示すものなのかもしれない。 電子供与体は目的通り同定でき、コードする遺伝子も明らかとなった。上記の通り亜硝酸塩還元酵素は精製できなかったが、脱窒で生育した菌体の可溶性画分にはc型シトクロムcから電子を受け取るものは本酵素しかないと考えられるため、酵素の精製度が高くなくても十分なデータが得られると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
計画通り、大腸菌によるNirMの大量発現系を構築し、NirMを大量に精製する、これと脱窒で生育したPseudomonas sp. MT-1の可溶性画分を用いてNirMの酸化活性を測定し、活性の温度、圧力依存性を明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの使用額であったが、消耗品の値引きなどで、若干の残額が生じたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
残額は実験用消耗品の購入に充当する。
|