現在,飼育下のイルカにおいては,肺炎や腸炎などの炎症性疾患が多発し,その対応が大きな課題となっている。したがって,これらの炎症性疾患の徴候をできるだけ早期に把握して的確な診断することが予防的な健康管理や効果的な治療をする上で求められている。本研究の主題であるイルカの臓器特異的なバイオマーカーは,血液検査によって炎症が生じている臓器や組織を早期に特定できる有益な指標となりうると予想される。 このような目的に合致する臓器特異的なバイオマーカーを探索するために,本研究では,健康な個体の血液中には存在せず,かつ傷病個体の臓器特異的な生体因子としてmicro RNAに着目した。まずバイオマーカーの候補としてハンドウイルカの諸臓器から抽出して作製したsmall RNAライブラリーを用いて,その配列および予測構造からイルカにおいては新規の合計56種類のmicro RNAを同定することができた。さらに,これらの組織発現レベルを検討した結果,特定の臓器で高発現が認められる8種のmicro RNA(miR)を見いだした。すなわち,組織発現解析の結果,他の組織と比較して脳ではmiR-125bおよびmiR-221が,心臓ではmiR-23bが,肺ではmiR-199aおよびmiR-223が,肝臓ではmiR-122-5pが高発現していた。またmiR-103aは脳および肺で,miR-204は脳および腎臓で高発現していた。これらのうち,7種のmicro RNAは血漿中での発現量が極めて低かったのに対して,miR-223は相対的に高い発現量を示した。 以上,本研究より,イルカの組織で特異的に高発現するmicro RNAを同定し,その多くは正常なイルカでは血中濃度が極めて低い値であることが明らかとなった。本研究で同定された臓器特異的に高発現するmicro RNAは,イルカの炎症性疾患のバイオマーカー候補として期待される。
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