研究課題
これまでのニジマスに加えて,タイセイヨウサケとウグイの鰓について,水素イオンとアンモニアの排出に関係すると予想されるトランスポーター群の局在を,超解像イメージングによって明らかにすることを試みた.水素イオンの排出は体液の酸塩基調節のかなめであり,アンモニアの排出は窒素代謝の最終過程であるため,これらのメカニズムを機能組織学的に明らかにすることは魚類生理学・水産増養殖学の両面から重要である.これまで,ニジマスにおいて,水素イオンとアンモニアの輸送に関与していると予測されるRh因子(Rhcg1,Rhcg2,Rhbg)とNa+/H+交換体(NHE3b)に対する特異抗体の作成に成功し,それぞれのトランスポーターの局在を同時多重免疫蛍光染色によって単一細胞レベルで可視化することに成功している.ニジマスに対して作成した抗体群のすべては,タイセイヨウサケにおいても利用可能であった.淡水および海水に順応させたタイセイヨウサケスモルトの鰓において,NHE3bとRhcg1は同一の塩類細胞の頂端膜に共局在した.さらに,前年度に確立した,共焦点レーザー顕微鏡とデコンボリューションソフトウェアを組み合わせた超解像イメージングによって,Rhcg1の局在の中心は頂端膜表面から約300ナノメートルの範囲に集中しているのに対し,NHE3bは頂端膜の表面から約300ナノメートルの範囲には強く発現せず,300~1,000ナノメートルの範囲に幅広く分布していることが明らかとなった.本年度はさらに,優れた酸性耐性と,コイ科の中では例外的に広塩性を示す,ウグイも取り上げた.酸性環境において,これまでウグイの塩類細胞は集合して頂端部を共有し濾胞状構造をとることが明らかにされていたが,それだけでなく,個々の塩類細胞の頂端膜が特徴的な構造を呈することが明らかになりつつある.
2: おおむね順調に進展している
複数の輸送体タンパクによる機能的複合体(メタボロン)を解析するためには,従来の共焦点レーザー顕微鏡を超える高解像度の顕微鏡画像取得・処理システムが必要となる.昨年度確立した,共焦点レーザー顕微鏡とデコンボリューションソフトウェアを組み合わせた超解像イメージングを有効活用することにより,抗Rhcg1抗体が,ニジマスおよびタイセイヨウサケなどのサケ科魚類において,塩類細胞の頂端膜に対する単なる形態的マーカーとしてのみならず,その塩類細胞が成熟し環境水に開口しているかどうかを判断するための機能的マーカーとして有用であることを明らかにすることができた.また,2000年代前半に先進的な成果が出されたものの近年取り上げられることのなかったウグイの塩類細胞に再び焦点を当てることによって,予想していなかった成果が得られつつある.
超解像イメージング技術をさらに有効活用し,ウグイの塩類細胞における重要トランスポーター群の局在様式をリマッピングすることによって,ウグイの優れた酸性耐性メカニズムを明らかにすることを目指す.さらに,塩類細胞の大きな特徴である豊富なミトコンドリアと管状構造についても,超解像イメージング技術によって,これまで困難であった微細構造の可視化を目指す.
本研究課題の遂行のため,ユーロフィンジェノミクス社のペプチド合成・抗体作製サービスを2017年10月に利用開始した.通常約3.5ヶ月で納期となるところが,複雑な抗原デザインのため来年度4月以降の納期予定となったため,補助事業期間延長を申請した.
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of Experimental Zoology Part B: Molecular and Developmental Evolution
巻: 328 ページ: 240-258
10.1002/jez.b.22729
Zoological Letters
巻: 3 ページ: 19
10.1186/s40851-017-0080-9
Journal of Experimental Biology
巻: 220 ページ: 4720-4732
10.1242/jeb.167320