降河期のサケ科魚類では、体の斑紋が消えて銀色に変化するスモルト化(銀毛化)という形態変化や、なわばりをやめて群れを作る、川の流れに逆らわなくなるなどの行動変化、海水の塩分にも慣れることができる生理変化が前もって起こり、海での生活の準備をすることが必要である。これらのスモルト化に伴う変化のうち、海水に適応する機構については幅広い研究が行われ、海水に慣れやすい放流種苗を判別する試みなども始まっている。しかし塩分には適応できても、河口に滞留してなかなか外洋へ出て行かない、海の新しい環境での疾病・寄生虫を防御できないなどの事例も報告される。即ち海水適応だけでなく、行動特性・耐病性を含めた総合的・効果的な対策が必要であるが、そのための基礎的知見が十分には得られていない。神経-免疫-内分泌系相互作用に立脚した放流種苗特性評価技術を開発するために必要な知見を得ることで、将来の湖ならびに海からの回帰も見据えた、新たな視点による総合的な種苗作出技術の開発に資する。 行動面でタイプ分けした個体群の比較により、脳神経・免疫系におけるホルモン関連遺伝子の意義を明らかにするため、マスノスケでの行動とホルモン・遺伝子の関係を解析した結果、定常状態を比較すると、水面近くに定位する群よりも、底近くに定位する群の方が、CRHが高い傾向があった。一方水温低下の刺激を受けると、水面近くの群ではCRHが上昇する反応が見られたが、底近くの群では有意な反応は見られなかった。ニジマスとスチールヘッドとの比較の場合と同じく、行動パターンに対応した遺伝子発現の差異が認められた。
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