熱帯性ナマコ類の繁殖生態の特性を明らかにするために、H26年度からH27年度に奄美地方加計呂麻島において年間4回、4種のナマコ類(ヨコスジオオナマコ、シカクナマコ、クリイロナマコ、フタスジナマコ)の成熟状態調査を行ってきた。最終年度(H28年度)は、それまでの調査から推測された産卵時期(5月および7月)において集中的に成熟状態調査を行い、3年間の調査結果をとりまとめた。その結果、それぞれの種の産卵期は、ヨコスジオオナマコ、シカクナマコでは6-7月、クリイロナマコでは5月、フタスジナマコでは5-8月と推定された。いずれの種も水温上昇に伴い成熟の進行、産卵が起こるものの、種によって産卵期や産卵期間の長さが異なることが判明した。 成熟誘起因子の種による違いや作用機構を明らかにするために、H27年度から最終年度(H28年度)にかけて、十分に成熟した卵巣を得ることが出来たヨコスジオオナマコ、クリイロナマコ、フタスジナマコを用いて、卵巣からの抽出物やマナマコで卵成熟誘起作用があることが判明しているクビフリンによる卵成熟誘起作用を検討した。その結果、クビフリンはヨコスジオオナマコに対しては卵成熟誘起作用を有したが、他の2種には作用を持たなかった。卵巣抽出物は、いずれも同種に対して卵成熟誘起作用を有したが、他種に対しては作用を持つ場合と持たない場合があることが判明した。すなわちフタスジナマコ、クリイロナマコの卵巣抽出物はいずれの種に対しても卵成熟誘起効果を示したが、ヨコスジオオナマコの卵巣抽出物はフタスジナマコに対しては作用を持たなかった。 卵成熟誘起物質を利用した採卵技術を構築するには、現在マナマコで利用されているクビフリンよりも卵巣内にある因子の方が作用する種の範囲が広く、利便性が優れる可能性が高い。今後はこの因子の化学的な実体解明が重要である。
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