研究課題/領域番号 |
26450299
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
里見 正隆 独立行政法人水産総合研究センター, 中央水産研究所, 研究員 (00344325)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒスタミン / プラスミド / 不和合性 / 好塩性乳酸菌 / 発酵スターター |
研究実績の概要 |
醤油や魚醤油など発酵調味料の製造過程では、アレルギー様食中毒の原因物質であるヒスタミンの蓄積が問題となる。ヒスタミンの蓄積は発酵調味料製造用発酵スターター(発酵の種株)と同じ種類の好塩性乳酸菌によるものであり、ヒスタミン生成酵素遺伝子(hdc)は本菌種が持つプラスミド(pHDC-A型)にコードされている。そのため、オリジナルのスターター株にhdc を持つプラスミドが伝播して、新たなヒスタミン生成菌が生み出される危険性がある。本研究では、プラスミドの不和合性(細菌細胞内で同じ複製開始点を持つ複数のプラスミドは共存し得ないという性質)に着目し、発酵スターター株にあらかじめhdcをコードしていないpHDC-A型の複製開始点を持つプラスミドを保有させ、外来のhdcをコードするプラスミドの取り込みを拒絶する安心安全な発酵スターター株を構築することを最終目標とする。 本年度はヒスタミン生成遺伝子をコードしているプラスミドと同じ複製開始点を持つが、ヒスタミンやチラミン等のアミン類を生成する遺伝子をコードしていないプラスミドの取得を目標とした。当初の計画通り、各種水産発酵食品から1126株の好塩性細菌を分離し、その中から水産発酵食品の優占菌であるTetragenococcus属の細菌であり、かつ、hdcをコードせず、pHDC-A型の複製開始点を持つプラスミドを保有する菌株183株を選抜した。さらに、選抜された菌株のヒスタミンおよびチラミン生成能を評価し、これらの菌株にヒスタミンおよびチラミン生成能が無いことを確認した。このようにpHDC-A型の複製開始点を持ち、hdcをコードしていないプラスミドを食経験のある水産発酵食品から取得できたため、遺伝子改変などを行うことなく、スターターに保有させるプラスミドの候補を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、既知のヒスタミン生成遺伝子をコードするプラスミドと同じ複製開始点を持ち、ヒスタミンやその他の有害アミン類生成酵素遺伝子をコードしていないプラスミドを取得することが出来たため、研究の進捗状況としては計画通りと判断した。計画書には、水産発酵食品由来の野生株から好適なプラスミドが得られなかった場合、遺伝子改変により新規の人工プラスミドを構築する必要があると記載したが、野生株より好適なプラスミドを得ることが出来たため、遺伝子改変による人工プラスミドの構築は不要であった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、好塩性乳酸菌のプラスミドの除去および導入技術の開発を行う。本研究では、pHDC-A型の複製開始点を持ち、hdcをコードしていないプラスミドを、発酵スターター候補株に保有させる必要があるため、スターター候補株においてプラスミドの導入および削除を制御できる技術開発が必要である。現在、乳酸菌におけるプラスミドの導入にはエレクトロポレーション法が一般的であるため、本法による遺伝子導入手法の確立を目指す。本技術が確立された場合、計画通り、プラスミドを導入・定着させたスターター株に外来プラスミドを打ちこみ、菌株の持つ制限機構(外来遺伝子の排除機構)および不和合性(細菌細胞内で同じ複製開始点を持つ複数のプラスミドは共存しない性質)が機能するかどうかを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は取得したpHDC-A型の複製開始点を持ち、hdcをコードしていないプラスミドのスターター株(好塩性乳酸菌)への導入をエレクトロポレーション法にて行うため、それに関連する試薬・消耗品が必要となる。また、候補となるプラスミドの構造を解析し、より有用なプラスミドを選抜するため、プラスミドの塩基配列決定およびそれに関連する試薬・消耗品が必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の研究を遂行するため、試薬消耗品購入費(遺伝子配列て決定および遺伝子導入関連消耗品)としておよそ70万円を使用する予定であり、また、試料採取のための旅費(北陸地方での水産発酵食品採取)として、およそ10万円の出費を見込んでいる。、研究支援職員を1 名、3カ月程度雇用(およそ90万円)し、研究を推進する予定である。なお、上記の研究は遺伝子組み換え実験をともなうため、専門的知識を有する者が必要との判断から支援研究員を雇用する。
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