醤油や魚醤油など発酵調味料の製造ではアレルギー様食中毒原因物質であるヒスタミン(Hm)の蓄積が問題となっている。Hm蓄積は発酵調味料製造用発酵スターター(発酵の種株)と同じ種類の好塩性乳酸菌によるものであり、Hm生成酵素遺伝子(hdc)は本菌種が持つプラスミドにコードされている。そのため、投入されたスターター株にhdcを持つプラスミドが伝播して、新たなHm生成菌が生み出される危険性がある。本課題ではHm生成菌に変質することが無い安心安全な発酵スターターを創出する研究の一環として、プラスミドの不和合性(細菌細胞内で同じ複製開始点を持つ複数のプラスミドは共存しない性質)を利用した発酵スターター株の開発を目的とする。 発酵スターター候補株を実際の魚醤油モロミにヒスタミン生成菌とともに添加して、ヒスタミン蓄積抑止能を評価した。国産水産発酵食品より、分離されたhdcをコードするプラスミドと同じ複製開始点を持つプラスミドを保有する好塩性乳酸菌のうち増殖特性などから発酵スターターとして有望である2菌株を選抜し、麹非添加イワシ魚醤油モロミにヒスタミン生成菌とともに接種して試醸したところ、ヒスタミンの蓄積が抑制され、また、試醸品の呈味性を発酵スターター非添加のものと官能的に比較したところ、呈味性は大きな差は見られなかった。発酵スターター候補株の保有するプラスミドの塩基配列を解析したところ、hdcをコードしているプラスミドと基本構造は同じで、hdcの有無のみが異なっていた。
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