最終年度である本年度は,地域として小麦振興に取り組んでいる北海道江別市,福岡・佐賀に続く九州の小麦産地である熊本における関係各機関への聞き取り調査・資料収集を中心とした研究を行った。 北海道が全体として「ゆめちから」や「春よ恋」などの硬質小麦に生産が移行しつつある中,江別市でもこれら2品種の作付けが増加しているが,農商工連携による「江別産小麦」100%の小麦粉・小麦加工品の生産を継続するには,成分調整のための中間質小麦が必要であるため,「きたほなみ」の生産を維持する取り組みも行われている。また,作りづらさから生産者には評判の悪い「ハルユタカ」についても,独特の風味から実需者の要望が強いことを踏まえて,一定の生産を維持するための方策が取られていた。 熊本では,この間,全国的な硬質小麦の生産増加と軌を一にして硬質小麦「ミナミノカオリ」の作付けが伸びてきたが,低収量・追肥要・低耐病性という点から生産者の評判は芳しくなく,高たんぱく加算金によって生産の維持を図っているのが現状である。そのような中,県産小麦の購入をほぼ一手に引き受ける地元の製粉業者からは汎用性の高い中間質小麦である「シロガネコムギ」「チクゴイズミ」の要望が強いため,従来から県内で多く作付けされてきたこれら2品種の生産も,多少の減少はあるものの維持されている。 小麦の生産から製粉・加工に至る過程に関わるステークホルダーの意見の調整の下に小麦生産が行われていることを両地域の共通点として挙げることができる。 この4年間の研究を通して,グローバル下における小麦産地の対応戦略の諸側面を明らかにすることができた。
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