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2014 年度 実施状況報告書

日本の乳業の海外事業展開、グローバル化に関する実証的研究

研究課題

研究課題/領域番号 26450308
研究機関東京大学

研究代表者

矢坂 雅充  東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90191098)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード乳業 / 乳ビジネスへの参入 / 原料乳調達 / 消費構造変化 / 生乳取引方式
研究実績の概要

平成26年度は(株)明治の中国での乳業事業展開と参照事例としてEUの生乳クォータ制度廃止にともなう乳業再編及びミルクパッケージへの対応について調査を実施した。
2013年に設立された明治乳業(蘇州)有限公司は小規模乳業工場を建設し、牛乳・ヨーグルト・生クリームの製造を徐々に拡大しつつある。中国政府は乳業メーカーに対して直営牧場の設置・運営を指導しているが、(株)明治では当座は生乳処理・加工に特化する方針を立てている。海外での乳ビジネスへの参入のためには高品質の生乳を安定的に確保することが必要であり、外資系の大規模酪農企業などから高価格の生乳調達が不可避となっている。
一方、明治乳業貿易(上海)有限公司が牛乳・乳製品の販路開拓、マーケティングを担っており、チルド物流の確保や急速に変化しつつある所得水準が中位以上の消費者の牛高品質牛乳・乳製品への需要に対応することが、一定数量の牛乳乳製品をいち早く安定的に販売するための課題となっている。
本年度は比較事例研究としてEUの生乳クォータ制度廃止にともなう乳業再編およびミルクパッケージへの対応について調査を実施した。生乳取引は乳業メーカーと酪農生産者が自主的に設置する生乳販売組織との相対取引で行われることになり、生乳の生産調整制度も廃止されることとなった。その結果、国境を越えた乳業の再編が加速されると考えられており、EU加盟国では具体的な取引ルール、生乳販売組織のあり方などの検討が進められている。今年度はイギリスおよびスペインの取り組み状況の把握に努めた。乳業再編はまだ水面下での動きにとどまっていたが、生乳を確保するための量販店による酪農生産者の組織化、生乳取引価格形成への新たなルールの適用などが展開していることが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

日本の乳業メーカーの海外事業の事例調査として、(株)森永乳業の中国ハルビン市での粉乳製造・販売事業を取り上げて、現地での調査を実施する予定であったが、2014年に森永乳業はこの事業を中止しており、調査を行うことはできなかった。
またキリンHDのオーストラリアでの乳ビジネスは、酒類販売事業の(株)ライオンが統括して進めているが、牛乳の廉売競争の影響で事業収益が低迷し、オーストラリアでの乳ビジネスを基盤とした東南アジアへの展開は遅れている。オーストラリアでの乳ビジネスの課題について、現地調査などをつうじて明らかにすることが必要であるが、受け入れ環境が整うまで状況をみることとして、今年度は日本での情報収集にとどめざるをえなかった。
一方、(株)明治の中国蘇州工場は稼働時期が大幅に遅れたものの、2013年に牛乳などの製造を開始しており、販売を担当している上海明治公司とともに、事業開始後の状況について説明を受けることができた。あわせて原料である生乳の調達先である大規模酪農企業を訪問し、外資である(株)明治における生乳調達先の選択要因を具体的に理解する調査を行うことができた。中国蘇州での乳ビジネスは工場が稼働してまだ間もないので、今後の事業展開はまだ一定の見通しがついているわけではなく、乳ビジネスの評価を現段階で行うことは難しいが、同社のタイでの乳ビジネスの経験や課題をふまえた独自色の強い事業が模索されていることなどが明らかになり、調査研究を進めていく上での視点がえられた。
補足的な比較調査として、EUのミルクパッケージ政策のもとでの生乳クォータ制度廃止、乳業の生乳調達規制の変化がもたらしている乳業再編、乳業メーカーのグローバルな事業展開についての調査を実施した。以上のように、当初の予定どおりに調査研究を進めることはできなかったが、可能な範囲で調査を実施することができた。

今後の研究の推進方策

乳業メーカーの海外、とくに中国や東南アジアでの乳ビジネス参入にとって重要な論点は、①生乳調達先の確保、②酪農生産者などとの生乳取引方式、③対象とする消費者、たとえば所得水準中間層の需要に対応した牛乳・乳製品開発・品質管理、④輸送・販売チャネルの確保、⑤現地企業との連携関係などである。
今後、日本の乳業メーカー、日本の非乳業メーカーのそれぞれの特徴を整理していく必要がある。キリンHD、アサヒグループHDのオーストラリア、中国での乳ビジネスの状況について、可能な限り詳細な調査が必要であり、その実現可能性を探ることにしたい。日本の乳業メーカーの海外での乳ビジネスの展開はその進展度や参入方式にかなりの差がみられる。単純な比較研究にはなじまないが、市場参入のリスクあるいは参入のための準備・経験、これまでの海外事業の経験がどのように活用されているのか、さらに参入先の牛乳・乳製品市場の特質などをふまえて検討することが必要である。調査環境を配慮しながら、上記の乳業・食品メーカーの海外での乳ビジネス参入先での調査を進め、事業参入の条件や特徴について具体的に検討していく。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 2件)

  • [雑誌論文] 多様化する酪農メガファーム2015

    • 著者名/発表者名
      矢坂雅充
    • 雑誌名

      農村と都市をむすぶ

      巻: 65-3 ページ: 2-3

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 大手乳業の海外事業展開2014

    • 著者名/発表者名
      矢坂雅充
    • 雑誌名

      酪農ジャーナル

      巻: 67-9 ページ: 15-17

  • [雑誌論文] イギリスの新たな乳価形成システム2014

    • 著者名/発表者名
      矢坂雅充
    • 雑誌名

      流通

      巻: 34 ページ: 99-105

  • [雑誌論文] イギリスにおける酪農生産者・量販店の生乳提携取引契約2014

    • 著者名/発表者名
      矢坂雅充
    • 雑誌名

      農村と都市をむすぶ

      巻: 752 ページ: 33-41

    • オープンアクセス

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公開日: 2016-05-27  

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