本年度は乳業メーカーの海外事業展開に関して、2つの視点から調査研究を行った。一つは、海外での確実な生乳調達で、円滑な生乳取引契約の締結や生産者の組織化である。生乳調達は酪農生産者や酪農協などとの生乳取引契約によって担保されるが、その内容は日本とはかなり異なっている。日本、とくに都道府県では取引乳量は取引相手である酪農生産者、酪農協の生産乳量とされ、取引乳価のみが交渉されるが、海外では乳価と乳量がともに契約に明記され、生乳の需給調整の一端を乳業メーカーが担っており、さらに乳質や生産性、動物福祉などに優位性を持つ酪農経営との持続的な集乳を実現するために、酪農経営のグループ化を図る動きもみられる。こうしたEUでの動向を捉えることで、乳業メーカーの海外事業の条件を検討した。 いまひとつは、日本や第三国からの乳製品輸出と直接的な海外進出との比較である。具体的には育児用粉乳の輸出を取り上げた。育児用粉乳輸出は歴史も古く、日本の乳業メーカーがもっとも輸出のノウハウをもっている製品である。しかし、育児用粉乳の輸出には大きな障害がある。たとえば、医薬品も扱う欧米の大企業における基礎研究の蓄積に対抗することの困難、コーデックス規格やWHO規範が日本の規格・基準とは異なっており輸出先が限定されている。育児用粉乳への社会的な位置づけ、母親の栄養摂取環境の差異がこうした国際標準規格との齟齬をもたらしてきている。 平成26年度から乳業メーカーの海外での乳ビジネスでは、現地での牛乳・乳製品製造における原料乳や製品の販路確保、現地流通業者との連携がきわめて重要であり、乳業メーカーの具体的な取り組みやその課題を検討してきた。さらに酪農生産者の組織化や乳製品輸出の検討を加えることによって、日本の乳業メーカーの海外事業展開、直接投資の条件や課題を多面的に明らかにしてきた。
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