平成28年度は、下記の調査研究を行った。 1.国内調査では、家族・いえの変容が家族農業経営の継承に大きく影響していると考えられることから、兼業稲作水田地帯(富山県)の農家世帯家族の変容に関する実態調査を行った。富山県は、「三世代世帯」=直系家族比率の高い県であるが、跡継ぎ不在や跡継ぎの転出により、今後「いえ」の継承が困難になる状況であることが分かった。これまであった「農業後継者は少なくなっているが、『いえ』の跡継ぎはいる」という富山県農村の常識が崩れつつあるということであり、「安定兼業稲作」構造も土台から崩壊するということになる。 2.家族農業経営の変容には、農業構造政策のあり方も大きく影響する。グローバル農政下の農業構造政策(規模拡大・コストダウン路線)に対し、現場に近い県レベルの農業構造政策を調査した。中山間地域を広く抱える二県、広島県と島根県を比較したところ、後者は、より柔軟な路線を選択していることを把握した。おそらく専門化・プロによる労働力編成では無く、個人化・多様化したライフスタイルを土台にした労働力編成が必要になっているとみられる。農業構造政策における地域での柔軟性が、日本農業を支えている。 3.海外調査は、韓国安東市における家族農業経営の調査を行った。その結果、①現在の農家は完全に専業化しており、しかも親世代の夫婦経営が多い。②次の世代は、都市で生活するが、7割は戻るとしている。③残り3割は新規参入である。④結果的に、農業経営数は維持され農村も維持されている等の状況があり、全般的に後継者等の人材流動性が高く、東アジアのなかでもかなりの多様性が存在することを把握した。 以上から、日本ではいえを補完する形で、”農業経営(人材等)の継承”と”地域資源(農地等)の継承”の新たな仕組みを構築すべき段階にきていると考えられる。また、それを可能にする柔軟な農業構造政策が必要である。
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