研究課題/領域番号 |
26450311
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
淡路 和則 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (90201904)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 農作業受委託 / マシーネンリング / 地域保全 / 経営複合化 / グリーンキーパー / 再生可能エネルギー / 仲介機能 / 農外所得 |
研究実績の概要 |
農業の機械作業の受委託を仲介する目的で誕生したドイツのマシーネンリングが事業領域を拡大する実態を把握した。 農作業の受委託により、委託側の委託費は増大しているがコスト低減が実現しており、受託側の受託所得が増加していることが確認できた。農作業受委託は農業経営の存続発展の基盤となっているが、マシーネンリングの取扱高の中に占める農作業受委託の割合は低下しており、1990年代後半に70-80%であったが、2010年には50%近くに低下していた。これは、農業生産における機械作業の受委託で形成された仲介機能を土台として農作業以外の様々なサービスを提供するようになったことを意味している。 マシーネンリングの事業は、公共緑地等の管理作業、街路樹整備、除雪など地域保全の役割、エネルギー部門での拡大が顕著に進んでいた。緑地管理や除雪等の作業は、当初の単なる小遣い稼ぎ的なものから高度なサービスを提供する専門職的な受託に進化してきていた。このサービスの質の高水準化の背景には、研修と資格を創設するなど担い手育成の整備があることを指摘できた。エネルギー分野では、当初は再生可能エネルギーの生産を支援する事業であったか、近年ではエネルギーの販売、購入に関する事業を手がけており、需給の両面から再生可能エネルギーの進展を支えていると考えられた。 こうした種々のサービスの担い手については、農作業受託は大規模層が担い手となっているのに対し、地域保全事業については小規模層が担い手となっている構造が確認され、エネルギー作物に関しては全階層的な取り組みであるが中間的規模から比較的大規模層に多い傾向が把握された。このように事業の多様化と担い手の分化の動態変化が明らかとなり、農業経営の多角化の推進基盤を指摘できた。 日本においては、農作業の進展がみられるが、受託組織の農外領域への事業展開はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年1月に予定いていた海外調査を次年度に延期することになったが、文献、海外の研究協力者からの情報提供等によって実態把握を遂行できた。海外の事例分析は翌年度に行うことになったが、全体的な動向分析は実施できた。また、マシーネンリングの新事業展開と担い手育成体制の関連性についての発見があった。国内における調査は、予定した以上に実施でき、仮説検証を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
海外の調査研究をドイツと近隣諸国について実施して、マシーネンリングの新たな事業展開についての全体的・地域的動向をさらに掘り下げて分析すると同時に、適切な事例を関係機関からの情報等をもとに選出し、それを対象として非農業生産分野での事業について展開をトレースし、新規事業発展の論理を解明する。また、新たな事業分野における担い手の事例を調査し、新たな事業が経営に及ぼすインパクトを明らかにする。また、本年度明らかとなった新事業の展開と研修および資格制度の整備について関係機関へのヒアリング等を中心に実態把握を行う。国内調査については、農協組織と農作業受託の関係性に着目して実態調査を進める。海外と国内の調査を踏まえて農業の組織化の理論研究のために、国内のみならずドイツ等の農業組織に関する文献を収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初本年1月にドイツ調査を予定していたが、受け入れ側の都合が合わなくなり、渡航しても情報収集の範囲が限られる状況となった。そこで、情報収集の効率を考えてドイツ調査を次年度に実施することにした。海外調査旅費として想定していた一部は国内調査に当て、次年度予定の国内調査を一部実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にドイツ調査を実施し、本年度に調査できなかった部分を補う。さらに、全国的な動向と地域的な動向を深く掘り下げて把握すると同時に、マシーネンリング等の組織と農業経営の適切な事例を捉え、ヒアリング調査を実施する。また、比較のためにドイツ周辺国についても状況把握を行う。国内調査は、組織形態の違いに着目して広く事例調査を実施する。海外および国内調査を踏まえて、ネットワークシステムについての理論的考察を進める。
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