韓国は,アメリカやEU,中国,オーストラリア,ニュージーランドなど農産物輸出大国とのFTAを立て続けに締結しており,こうしたFTA戦略が国内農業にどのようなインパクトを与えているのかに注目し,今年度も調査をおこなった。 調査地域は,全羅北道完州郡,全羅南道羅州市,同固城郡の3地域において,米,畜産(韓牛,韓豚)といった多様な品目を生産する農家からヒアリングをおこなった。 米については,個別農家では規模の拡大が進んでいることに加え,政府の米産業発展対策に呼応する形でトゥルニョク経営体といわれる組織化対応もみられた。そこでは,作業受委託による個別農家支援がメインであったが,大規模農家との連携や農地の団地化等をはかるなど,新たな動きが確認できた。こうした動きが,韓国全体に波及する可能性があるのか,そのための条件や課題はどのようなものであるのかといった点が,今後の研究課題としてあげられる。 畜産では,FTAによる安価な輸入農産物への対抗として,規模拡大による競争力強化が米以上に進んでおり,かなりのスピードで構造改善がみられた。その一方で,離農した農家が地域においてどのような位置にあるのか,といった側面からの調査・フォローが今後の研究課題として浮き彫りとなった。 また,FTAによる国内農業への影響を緩和するために打ち出したFTA被害補填直接支払いの発動実績を考察すると,当初被害が想定された品目には3つの条件(輸入量全体の増大,FTA締結国からの輸入量の増大,国内価格の下落幅)をクリアしていないため発動されておらず,逆に被害が予想されていなかった品目で発動するなど,国内生産への影響を予測することの難しさが明らかとなった。
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