研究課題/領域番号 |
26450319
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研究機関 | 共栄大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 共栄大学, 国際経営学部, 教授 (80364876)
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研究分担者 |
矢野 佑樹 共栄大学, 国際経営学部, 講師 (40618485)
丸山 敦史 千葉大学, 園芸学研究科, 准教授 (90292672)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射性物質 / 香港 / アメリカ / 中国 / エネルギー / 原子力発電所 / 食の安全性 / 環境問題 |
研究実績の概要 |
今年度は,平成27年度の実施計画に基づいて,アメリカにおける放射能汚染がエネルギー及び食品選択行動にもたらす要因について考察した。その結果,放射性物質の知識やその情報,安全確認に最も関心を持っていたのは子供を持つ親たちであったことや,わが国が今後も最も必要なことは,正しい情報をアメリカ政府に提供するということが明らかにされた。 また,輸出再開後の香港の消費者選好を分析した結果,日本産に対する放射性物質検査の信頼性は低く,その信頼性は和牛よりコメの方が低かった。そして,なすひかりを購入する可能性が高いのは女性であるが,放射性物質の検査制度に対する信頼性は低いため,FOODEXPOのような展示会で香港人に安全性をアピールする必要があった。同様に,とちぎ和牛を購入する可能性が高い香港人富裕層についても,放射性物質検査の信頼性は高いとはいえず,今後は安心感のある和牛を輸出する必要があった。 最後に,食品内の放射性物質から子供を守る安全対策に関する分析を実施した結果,子供を持つ親の6割が放射性物質の汚染に関心があり,7割が子供に対する放射線の影響について知っていた。統計的に推計した結果,放射性物質の汚染について対策しているのは女性であり,汚染された産地の食品や放射性物質を取り込みやすい食品を購入しなかった,水で良く洗った,葉茎・根を切り落とした,野生動物は食べなかった等の対策を親達は実施していた。 なお,中国厦門において,環境問題やエネルギー問題の関心度と,放射性物質やPM2.5等の身近にある環境やエネルギー問題とが,再生可能エネルギーや近未来の農業に関する考え方と関連しているのかを調査した。調査結果は推計中であるが,中国の学生や知識層は,PM2.5等の環境問題に関心があり,再生可能エネルギーや人工光型植物工場を利用した近未来農業とかかわりが深いことが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度はスウェーデンにおける食品内の放射性物質安全対策を研究してきた。スウェーデン農業科学大学と研究を詰めていく過程で,調整・修正する箇所が出てきたため,若干研究が遅れてしまった。しかしながら,アメリカにおける放射能汚染がエネルギー及び食品選択行動については調査・分析も終了し,2016年5月28日の日本国際地域開発学会で推計結果を報告する。そして,中国厦門では環境問題の関心度が再生可能エネルギーや近未来農業の利用に関連性があるのか,すでに調査を実施しており,進捗状況としては進んでいる。また,香港人が隣接する大亜湾原発の事故をどう考え,今後中国の安価な電力を使うのか,かつ香港人は植物工場野菜や有機栽培野菜を選択するのか,すでに調査票を作成し,翻訳中である。また,ウクライナ・ベラルーシにおいて食品内の放射性物質に子どもの規制値があり,わが国の規制値は,両国の規制値を基準にしている。両国において,食品内の放射性物質の規制値を両国民がどの程度把握しているのか,また満足しているのか考察する。最後に,フィンランドは1950~60年代の核実験による降下物や,チェルノブイリ原発事故による放射性物質の飛散量が多かった国である。同国では放射性降下物による汚染を教訓として,国民の健康への影響を把握し,緊急時の対応計画を立案している。同国ではどの程度,教訓が活かされているのか,調査を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究の推進方策としては,①スウェーデンにおける食品内の放射性物質安全対策を継続して,調査していく。そして,中国においてはPM2.5を含めた環境や,今後のエネルギー供給が問題になっているが,②中国における環境及びエネルギーの関心が再生可能エネルギーや近未来農業の利用に関わる影響も考察したい。また,香港では隣接する中国の大亜湾原発から電力を供給するのか,CO2の排出量を増加させながら,香港政府内の火力発電所で電力を供給するのかが問題となっている。他方,香港では新界を中心に,自然農法に回帰し,安全性の高い農産物を望む市民も増えてきたため,③香港における電力供給の方向性と食の安全性について考察する。また,チェルノブイリ原発事故から30年が経過したが,旧ソ連で最も放射性物質の降下物が多かったウクライナ・ベラルーシでは大学進学率が世界トップクラスであるが,④ウクライナ・ベラルーシにおいて食品内の放射性物質をどの程度理解し,その理解度が食品を購入する際の選択に影響するのか把握する。同様に,⑤フィンランドにおいて放射性降下物による汚染を教訓して,国民の健康への影響をいかに管理しているのかを把握する。最後に,日本国内のスーパーにおいても,福島産の農産物が販売され,購入されるようになったが,⑥東日本大震災から5年を経過し,国内の消費者の意識がどのように変化したのかを検討する。
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