本研究は、日本の農業環境・資源政策の評価手法を開発し、実際の施策の評価を試みることを課題とする。評価の対象は、現行の国の政策である環境保全型農業直接支援対策と多面的機能支払交付金とする。前者は農業環境政策のひとつとして、後者は農村振興政策の一例として位置づける。 環境保全型農業直接支援対策は、化学肥料と農薬を慣行栽培の半分以下に減らすことに加え、地球温暖化対策または生物多様性保全に貢献する取り組みを行う農業者に対して交付金を支給するという制度である。本研究では、環境保全型農業直接支援対策を定量的に評価する学際的政策評価モデルを開発した。本年度は、対象地域である、滋賀県最大の内湖である西の湖流域(長命寺川流域)において、生態系の数値シミュレーションモデルであるCASMモデルにより、西の湖への栄養塩の流入量の変化が水棲生態系に与える影響を分析した。これまでの農家行動と陸域流出過程のモデル分析と総合すると、西の湖における水棲生態系の回復には、全農家の4割以上によるまとまった取り組みが必要であり、政策効果が顕在化するには長期的なコミットメント(参加農家数にもよるが、おおむね15-20年以上)が必要であることが示された。 多面的機能支払交付金は、多面的機能の維持・発揮や地域資源の質的向上を図る共同活動を行う活動組織に対して交付金を支給するという制度である。本研究では、本交付金の農村振興への影響について、農地・水・環境保全向上対策(多面的機能支払交付金の前身)への参加を契機として、むらづくりの多様な取り組みを行っている滋賀県近江八幡市白王町を事例として分析した。白王町での各活動の階層構造を抽出し、各段階におけるソーシャル・キャピタルの役割について検討した。
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