研究課題/領域番号 |
26450328
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石田 章 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50346376)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 母子世帯 / 食意識 / 食行動 / 多重比較 |
研究実績の概要 |
貧困や経済格差が社会問題化し,貧困の世代間連鎖や子どもの貧困問題への対処が喫緊の政策課題となっている。こうした状況を受けて,とくに近年,子どもの貧困率が高いとされる母子世帯に関する研究が活発化している。しかし,子どもの食料・栄養摂取状況と密接な関連性が指摘されている母親の食意識・食行動に関して,母子世帯を対象とした研究は殆ど行われていない。そこで,NHK放送文化研究所世論調査部「健康に関する世論調査, 2009」,東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト「東大社研・壮年パネル調査(JLPS-M)wave 1, 2007」,内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室「親と子の生活意識に関する調査, 2011」の個票データを用いて,母子世帯の母親の食意識・食行動の特徴を明らかにすることを目的とした。 中学生以下あるいは15歳以下の子どもと同居しており,かつ調査時点で50歳未満である「母子世帯の母親」,「夫婦世帯(中上位層)の母親」,「夫婦世帯(下位層)の母親」の3群比較(カイ二乗検定とSteel-Dwass検定)を行った。その結果,以下のような結論を得た。 食生活に対する意識面では,母子世帯と夫婦世帯の母親との間にほとんど差は認められなかった。しかし実際の食行動をみると,母子世帯の母親は夫婦世帯の中上位層のみならず下位層の母親よりも欠食率が高く(子どもも欠食傾向あり),栄養バランスの点でも乱れている可能性がある。母子世帯の母親は食の安全性に対する関心度が低く,食品購入時に表示を十分に確認していないと推察される。このように母子世帯の母親は低所得というだけでは説明できない特有の食行動を行っていることが明らかとなった。その背景要因として,母子世帯の母親は一人で家計を支えなければならず,夫婦世帯の母親よりも就労時間が長く,結果的に時間的制約が厳しいという現状が指摘できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は母子世帯の子どもに焦点を当てた分析を行ったことから,平成27年度は,1)母子世帯における母親の食意識・食行動の特徴とその規定要因を明らかにすること,2)「食」にかかわる貧困連鎖の可能性を明らかにすることを研究目標とした。1)に関しては,大規模個票データを用いた定量分析の結果,母子世帯の母親は低所得というだけでは説明できない特有の食行動をとっていること,その背景要因として時間的制約が厳しいことなどを指摘した。こうした分析結果を踏まえつつ,2)の「食」にかかわる世代間連鎖の可能性について検討するために,関東圏に居住する20歳代の独居者を対象としたアンケート調査を実施し定量分析を行った。その結果,研究成果のとりまとめは次年度(平成28年度)送りとなったが,母子世帯の出身者は夫婦世帯の出身者と比較して,小学生期から高校生期へと学齢があがるに伴い食行動がより顕著に乱れること,しかし意外にも20歳代になると,両者の食行動には顕著な差が認められなくなることを指摘した。 よって,年度当初に設定した研究目標はおおむね達成できたことから,本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26・27年度に実施した分析では,母子世帯の母親および子どもの食意識・食行動とそれらの規定要因と「食」にかかわる貧困連鎖の可能性について検討した。引き続き平成28年度は,27年度に実施した独自調査や研究者に公開されている大規模標本調査の個票データに共分散構造分析,propensity score matching,多重比較,多変量解析などの手法を用いて,「食」にかかわる世代間連鎖の可能性について再検討を行う。同時に,母子世帯を対象とした独自アンケート調査を継続して実施し,所得変動や経済ショックが母子世帯の母親・子どもの食行動・食事満足度に及ぼす影響について分析を行い,3年間の研究の取りまとめを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
47.8万円の繰越額が生じた理由は,1)査読付き学会誌に投稿した論文2編の掲載が確定したが,掲載時期が平成28年度中となったことから,それらの掲載料(11万円程度)の支払いを平成27年度中に行えなかったこと,2)「食」にかかわる貧困の世代間連鎖に関する調査の一部が平成27年度内に終了しなかったことから(平成28年度4月初旬に終了),その調査費用(約36万円)の処理が次年度(平成28年度)送りとなったこと,にある。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のとおり,平成27年度からの繰越金(約47.8万円)については,学会誌掲載料(約11万円)と「食」にかかわる貧困連鎖の調査費(約36万円)として支出する。今年度(平成28年度)の助成金(50万円)については,所得変動と経済ショックが母子世帯の母親・子どもの食行動および食事満足度に及ぼす影響に関する調査費(約30万円),学会報告のための旅費(約5万円),学会誌投稿料・掲載料(15万円)として支出する予定である。
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