子どもの貧困問題への対処が喫緊の政策課題となっていることを受けて,とくに近年子どもの貧困率が高いとされる母子世帯の研究が活発化している。しかし,母子世帯の食料摂取状況や食行動・食意識に関する研究は極めて限定されている。そこで本研究では,母子世帯の母親および子どもの食行動・食意識の特徴を明らかにすることを目的とした。前年度までの分析によって,1)母子世帯と夫婦世帯の母親を比較した場合,食意識面では差はない一方で食行動面では大きな差が認められること,2)夫婦世帯と比較して母子世帯の子どもは食行動が乱れていること,3)この背景として,母子世帯の母親が時間的制約から自身や子どもの食行動に十分に注意が払いにくい状況にあること,などを指摘した。 最終年度では,母子世帯出身であるということが成人後の食行動に影響を与えているかどうかについて定量分析を行った。「東大社研・壮年パネル調査」と「若年パネル調査」の個票データを用いた定量分析の結果,1)現在の食行動のうち,母子世帯出身であることが影響しているのは「朝食摂取頻度」と「1日3食食べる頻度」であり,母子世帯出身者は欠食傾向があること,2)現在の「栄養バランスの取れた食事を取る頻度」は「母子世帯出身」ではなく「過去の暮らし向き」が影響していることを明らかにした。 また,食育関心度と食行動との関連性および母親の食育関心度に影響を及ぼす要因を検討した。内閣府「食育に関する意識調査,2012」の個票データを用いて定量分析を行った結果,母親の食育関心度に影響を及ぼす要因として,乳幼児との同居,調理関心度,家族との共食意識,食事中の会話頻度などがあることを明らかにした。母子世帯と夫婦世帯の母親の間には明瞭な食育関心度の差は認められなかったが,こうした分析結果は「母子世帯と夫婦世帯の母親の間には,食意識面で差はない」という初年度の結果と整合的である。
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