研究課題/領域番号 |
26450329
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
木村 雄一 大分大学, 経済学部, 准教授 (80419275)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 農業における女性の経済的地位 / 土地所有権制度 / 商品作物への長期的投資 / 西アフリカ / 小規模農業家計 / ゴムプランテーション |
研究実績の概要 |
本研究は、1. プランテーション向け換金作物の小規模契約栽培への参加が、農業における女性の経済的地位向上に関してどのような効果をもたらしたか、また、2. その前段階として、女性が管理する農地において換金作物導入がなされる頻度を決定づける要因を特定することを目的としている。
分析の経過として、現時点で得られた知見は以下のようなものである。 問題1 について、食糧作物や、カカオ、オイルパームなど比較的伝統的な換金作物が「男性の作物」としての位置づけがある(女性の管理下にある農地では比較的導入されにくい傾向がある)一方、ゴムでは有意な男女差がないことが分かっている。従来、女性の作物としての位置づけがある食糧作物農地を、プランテーション会社が契約栽培者として勧誘してゴム栽培に取り込むことで、他の換金作物に比べてゴムへの女性の参加率が上昇したというものである。もしくは、ゴム会社が、契約栽培者契約に際して、土地権利の再整理によって、登録上の名義で女性の土地が増加したというものである。説明を統計的に決定することが、完成の要件となる。
問題2 について、土地権利に対し、長期的な換金作物栽培がどのような影響をもたらしたかを分析している。現在までに、相続人任命権、賃貸に付す権利、借入の抵当に使用する権利、の3つの尺度について、ゴム栽培導入が女性の土地権利拡張に関係していることが分かっている。これは他の商品作物では起きていない。この理由が、長期的な投資を行ったこと自体が権利を増強したのか、ゴムのプランテーション会社が女性の参加を推奨するために行っている政策介入: 女性名義での栽培契約と、親族所有による権利関係の混乱を防ぐための所有権再整理への助力、のうち、どれが関係しているのか、もしくは、上述の、元々女性の管理かにあった農地の参加を促したことに起因するのか、統計的に決定することが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年8月から9月に本調査で、利用可能データ244件、農地プロット数にして 585件を収集した。この後、データの入力と変数生成、研究の問題設定に従った計量分析を進めてき。この過程で、研究の問題設定の根幹に関わる変数の観察値の一部に欠損が生じていることが明らかになった。これらは、回答者への質問意図の伝達エラーにより、また別の場合には調査員の質問意図の把握エラーによって生じたものであることが判明した。前回の回答者の大部分は、携帯電話番号を把握していたので、2015年8月に、3週間ほどをかけて電話による追加調査を行った。前回雇用した調査員6人に依頼し、データ欠損値の多くを補うことができた。ここから現在まで、ほぼ順調に分析を進め、論文の形で執筆を進めつつ、計量分析の試行錯誤により、結果を蓄積しつつある。
全体として、蓄積した推定結果の山を整理し、テストしている因果関係が、頑健に「識別」されているという要件を満たし、その上で、語るに足る、秩序だったストーリーを論文上構築することである。現段階で何とかこの段階が視野入ってきたので、これを、本年度の可能な限り早い段階で成立させることを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
上の結果1:ゴム栽培導入にのみ、性別バイアスがないという点について、上記の複数の仮説的な説明から、本当の説明要因を統計的に特定すること、また、この商品作物導入の決定要因を推定する関数の中で、重要な説明要因であり、かつ内生性が疑われる変数については、その内生性に対する処理を確実に行い、結果の頑健さを確保することが研究完成のための要件である。具体的には、「女性が主要耕作者である」という農地属性の内生性の解決が最重要課題となる。
結果2 についても、説明要因の内生性に対するトリートメントが最重要要件のひとつで、具体的には、プランテーション企業の女性プロモートに関するふたつの介入について、介入自体が女性の権利拡張を生んだのか、元々権利の強い女性が参加促進された結果が見えている部分があるのか、この点を識別することが研究として成立する要件となる。加えて、問題設定3. 土地の使用権が、夫や妻など個人に属する一方、所有や相続については親族の集団的な所有権に近い形態という伝統的土地所有制度が、長期的投資である換金作物導入に対して、それを妨げる効果を持っていないかどうかという点について検証する事も、研究目的の主要部分となる。
これら全てが完完了した時点で、新たな論文として、別の尺度:家庭での消費を決定する権限、女児への消費支出、子供の学校教育への男女支出比率などを採用し、新たなトピックとして研究にすることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年8月に、電話による追加調査を調査員とともに行うためにガーナに渡航した。このための必要経費をあらかじめ見積もってから渡航したが、必要な渡航費・宿泊費・謝金の見積り誤差、為替変動による誤差のため余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
収集したデータのうち、入力作業が完了していない部分がある。これは次の研究論文に利用する。この入力作業を、雇い入れた学生に委託して、謝金業務として行う。
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