研究課題/領域番号 |
26450334
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
秋吉 恵 立命館大学, 共通教育推進機構, 准教授 (00580680)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インド / 小農・零細農 / 乳用家畜 / 貧困削減 / 委託飼育 |
研究実績の概要 |
グジャラート州中央部の3つの村において、乳用家畜の飼育家庭を対象に行った調査結果を分析した。全国標本調査報告で認められた乳用家畜の主な保有階層における農村上位層から小農・零細農への変化は、調査対象村でも同様に認められ、特に土地所有の偏在が高い後2村において、その傾向が強かった。 Tintoda村は、村の上位層であるジャイナ教徒がアーメダバードに移住し、村の土地を多くのタコールコミュニティなど小農・零細農が分配して保有する。この村の調査対象世帯の乳用家畜保有数は平均3頭の水牛であり、その4割を泌乳牛が占める。ただし土地所有面積が比較的大きい世帯における乳用家畜保有数は多く、交雑牛の飼育割合や泌乳牛割合も高い傾向が見られる。 Rupal村とSonarada村は、村の最上位階層だったブラーマンが市街地に移住し、中位層だったパテルコミュニティに土地所有が偏在している。1980年代に酪農協同組合設立の中心にあったパテルコミュニティは、調査時には世帯ごとの乳用家畜の飼育頭数は平均2頭、その多くが泌乳牛であった。次世代が高等教育を受け、経済成長に伴い市街地が拡大し、村においても農外就業機会が増加したことによって、家族労働力が確保できず、飼育頭数の減少が起きたと推察される。一方、小農・零細農であるタコールコミュニティは、乳用家畜保有数は平均3頭の水牛であり、その3割が泌乳牛であった。また、ラバリコミュニティの乳用家畜保有数は平均11頭の水牛であり、その6割が泌乳牛であった。 保有家畜を年齢や性別、ミルク生産能力によって分類すると、小農・零細農の保有する乳用家畜は泌乳牛よりも乾乳牛や3歳以下の牛の割合が高く、上位層のそれと逆転している。現在、乾乳牛や3歳以下の牛の偏在とその移動プロセスの詳細を聞き取り、乳用家畜の委託飼育やそこでの先買権などの仕組みの明示化を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.研究受け入れ地域であるインド・グジャラート州において、政治状況の変化(2014 年5月モディ州首相が首相に選出)を受け、村落内政治に影響を与え、酪農協同組合連合体や村落単位の組合による調査受け入れに混乱が生じ、研究遂行に時間を要した。 2.研究代表者の早稲田大学における任期満了に伴い、立命館大学への着任(2016年4月)により、業務内容の変化等への対応から、調査研究活動に遅れが生じた。 3.グジャラート州農村部での調査のために2月にインドに渡航したが、デリー国際空港での入国審査で、日本で取得してきたツーリストビザによる入国許可が得られなかったため、調査を実施することができなかった。入国許可が得られなかった理由については、審査官からの説明は不明確であり、インド関係諸機関に問い合わせしているが、明確な理由は明らかとされていない。 4.3村で行った乳用家畜の飼育家庭への半構造化質問票による調査結果を分析した上で、乳用家畜の入手手段および経路に関わるより詳細情報を得るためのインタビュー調査を行った。インタビューは、研究代表者の調査をこれまで10年以上にわたり補佐してきた現地コンサルタントが現地に入り、遠隔通信を利用して研究代表者とインタビュー対象者の対話を繋ぐ形で実施している。
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今後の研究の推進方策 |
インド・グジャラート州における乳用家畜の入手手段および経路に関わるより詳細情報を得るためのインタビュー調査を、来年度も現地コンサルタントが現地に入り、遠隔通信を利用して研究代表者とインタビュー対象者の対話を繋ぐ形で実施し、これまで取得してきた調査データを補完するデータを取得する。その上で、インド・グジャラート州における乳用家畜獲得プロセスと貧困削減との関係性について、学会発表及び論文執筆を予定している。 さらに、同じ南アジア文化圏の国々において、乳用家畜獲得プロセスと貧困削減との関係を探る調査を実施する予定である。これらの国々は国連に最貧国に挙げられながら、近年の経済成長に伴いミルク製品の需要が増大し、酪農開発が進みつつある。これまで研究代表者は、NGOが実施する農村開発プロジェクト(バングラデシュ、ネパール)や、国際協力機構が実施する持続的畜産開発プロジェクト(パキスタン)に協力する中で、予備的調査を行なってきた。それを踏まえて、調査地として、バングラデシュ・ノルシンディ県、ネパール・バグマティ県、パキスタン・シンド州を想定している。研究代表者が本研究において探求している貧困層への仔牛や乾乳牛の委託飼育が行われている/いたかを、現地コンサルタントの協力を得て調査する。複数の国を比較することで、酪農開発の展開の違いや、畜産物における市場経済の発展の違い、さらには各地域における家畜飼育における慣習が、貧困層の乳用家畜獲得プロセスに与える影響について考察を深めることができると期待している。なお、調査予定国におけるテロ等によるリスクを回避する必要性が生じた場合、調査対象から外すこともあり得る。本調査結果は、2018年度に学会発表及び論文執筆を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者によるインドでの調査が実施できず、その対処として実施している現地コンサルタントによる調査が年度末までには終了しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
インドでの調査については、現地コンサルタントが遠隔通信を利用して研究代表者とインタビュー対象者の対話を繋ぐ形で実施することとした。インドでの調査にめどが立ったことから、類似の文化圏にあることから本研究で明らかとしたい貧困層への乳用家畜の委託飼育の仕組みが伝統的に存在する可能性があり、かつより貧困削減の必要性が高い南アジアの三ヶ国での調査を計画している。
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