平成28年度は,農地石垣の災害復旧における補助制度の有無による農家の意識の違いを明らかにし,適切な災害復旧の支援の在り方をさぐることを目的に研究を行った. 調査対象地域は,熊本県熊本市河内町,長崎県南島原市加津佐町,長崎県南島原市深江町の3地域とした.3地域はいずれも傾斜農地が多く存在し,傾斜農地内のほとんどに石垣が存在する石垣地域である.熊本県熊本市では農地,農業施設が被災した場合にその復旧を補助する制度である小災害復旧制度が実施されており,被災の規模によっては河内町のミカンの段畑も小災害復旧制度の対象地となる.長崎県南島原市加津佐町は被災箇所復旧への補助制度等は無いが,平成20年に長崎県から「長崎県だんだん畑十選」に認定された地区の1つである.長崎県南島原市深江町は島原半島の有明海をはさんで熊本県側に存在する町で,葉タバコを多く生産している.調査項目は回答者の基本情報の他,石垣を含む農村景観への印象,保全の意思や石垣の管理は土羽やコンクリートブロックの法面に比べ手間に感じるか等を5段階評価で質問した.また小災害復旧制度の認知や利用予定について回答を募った.アンケート調査は地域の農業協同組合で開催される会合の際および地域で農業を営む人に直接渡す事で行った. その結果,石垣地域における石垣を含めた農村景観への評価は高く,保全への意識は補助制度や認定制度による影響はあまり受けないと考えられた.石垣の日常的な管理は土波よりも手間がかからず,コンクリートブロックよりは手間がかかると感じている方が多かった.崩壊時の補修では金銭面や手順の簡便さから現在も石垣を選択する場合が多いことがわかった.今回の調査地域においては次世代への石積み技術の伝承が課題である.また地域ごとの回答者数の差が大きいため,今後回答者数と調査地域を増やす必要がある.
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