研究課題/領域番号 |
26450358
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
黒瀬 義孝 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域, 上席研究員 (80355651)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 模擬植物 / 土壌の水ポテンシャル / ポテンシャル蒸発量 / 水分ストレス |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、ポーラスカップ(多孔質のセラミック)で作製した模擬植物を使い、植物環境を計測する手法を開発することにある。開発する手法は、土壌の水ポテンシャルの計測手法、ポテンシャル蒸発量の計測手法、植物が受けている水分ストレスの計測手法の3つである。 土壌の水ポテンシャルの計測に関しては、各種土壌を詰めたポットに模擬植物と水ポテンシャルセンサーを設置し、模擬植物の指示値(ポーラスカップからの滲出水量)と土壌の水ポテンシャルを測定した。土壌の水ポテンシャルがpF2.9(-80kPa)までは、土壌の種類が異なっても、滲出水量から算出される水ポテンシャルと水ポテンシャルセンサーの測定値はほぼ一致した。しかし、土壌がpF3(-100kPa)以上に乾燥すると、模擬植物は土壌の水ポテンシャルを過小評価した。 ポテンシャル蒸発量の計測に関しては、ポーラスカップの向きを変えた模擬植物を作製し、蒸発量を測定した。測定はガラス温室、雨よけ施設、気象観測露場で行った。設置場所に関わらず、ポーラスカップの向きを上向きにするほど蒸発量が多くなった。また、模擬植物内の水温は小型蒸発パンや大型蒸発パンの水温より低く、湿球温度に近かった。 植物が受けている水分ストレスを計測する手法に関しては、カンキツの近傍に模擬植物を設置し、模擬植物からの滲出水量とカンキツの葉内最大水ポテンシャル(水分ストレス)との関係を調査した。試験はポット植えの苗木と園地の成木で行った。カンキツが受けている水分ストレスが強まるほど模擬植物から滲出する1日当たりの水量が多くなり、模擬植物が水分ストレスの指標になることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
模擬植物を用いた土壌の水ポテンシャルの計測に関しては、pF2.9までは滲出水量から算出できた。テンシオメータはpF2.7(-50kPa)が測定限界であるが、模擬植物は土壌がより乾燥した条件下での測定を可能にした。 ポテンシャル蒸発量の計測に関しては、蒸発面の形状(円柱形)が同じでも向きを変えるだけで蒸発量が変化することが明らかになった。また、模擬植物内の水温が湿球温度に近かったことから、模擬植物の蒸発量とポテンシャル蒸発量との比が気温に依存して変化する現象を解明する糸口が得られた。 植物が受けている水分ストレスの計測に関しては、模擬植物からの滲出水量により植物が受けている水分ストレスを評価できることを、カンキツを事例にして示した。以上のように、研究は当初計画に沿って進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
土壌の水ポテンシャルの計測に関しては、土壌がpF3以上に乾燥すると、模擬植物から滲出した水が土壌中に十分に拡散できず、模擬植物とその周囲とで大きな水ポテンシャルの差が形成され、これにより土壌の水ポテンシャルを過小評価した。この現象を考慮して土壌の水ポテンシャルを算出できるようにする。 ポテンシャル蒸発量の計測に関しては、蒸発面であるポーラスカップの向きを変えるだけで蒸発量が大きく変わった。そこで、蒸発面である多孔質セラミックの形状や大きさ、向きを変えて模擬植物を作製し、ポテンシャル蒸発量を測定できるようにする。また、水を入れたフラスコに葉を挿し、重量変化から蒸散量を測定する。模擬植物の蒸発量と比較することにより、植物からの蒸散量を模擬植物で評価できることを実証する。 植物が受けている水分ストレスの計測に関しては、カンキツを使って同様の試験を行い、再現性を確認する。さらに、カンキツは水分ストレスを受けるほど果実糖度が上昇することから、果実糖度は日々の水分ストレスを積算した指標であると考え、果汁蓄積期間に模擬植物から滲出した総水量と果実糖度との関係を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用の研究費が生じないように使用したが、未使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費として使用し、研究を実施する。
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