生細胞を長期保存する方法としての凍結保存は有効であるが,培養液中での氷結晶の形成や凍結防御剤による障害を受け,生細胞の機能や生存率が低下することが多い。0℃以下でも氷結晶が生成しない水の過冷却現象を積極的に利用して,凍結防御剤を用いない生存率の高い新規な生細胞の保存方法を提案する。具体的には,-40℃付近まで過冷却状態を保持できる単分散微細水滴に生細胞のモデル細胞として酵母を内包し,保存に適した温度帯を決定する。 本年度は昨年度に引き続きDSCによる微細水滴内の氷核形成温度の測定および微細水滴に内包された微生物生存率の算出を行った。 過冷却状態での保存に適したW/O型エマルションの調製方法ついて検討するため、MC乳化法とボルテックスミキサー乳化法を用いて酵母内包W/O型エマルションを調製し、低温保存前後の液滴径変化と過冷却解除温度の測定を行った。その結果、MC乳化で調製した場合には、過冷却解除温度が-35℃を示す単分散エマルションを得ることができた。調製した2つのエマルションを-10℃で保存したところ、多分散エマルションでは氷結晶が生じたが、単分散エマルションでは1週間後でも氷結晶が認められなかった。過冷却状態での保存に適した分散相について検討するため、対数期と定常期の状態の酵母分散培養液を用いて酵母内包W/O型エマルションを調製し、低温保存前後の液滴径変化と生存率の測定を行った。その結果、いずれの分散相においても、高い酵母内包率で均一な液滴径のW/Oエマルションを調製することができた。調製した酵母内包W/O型エマルションを低温で保存したところ、液滴安定性に差は観察されなかったが、生存率には変化が見られた。分散相として定常期の状態の酵母分散培養液を用いて調製したW/O型エマルションで高い生存率が維持できた。
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