本研究では、微細水滴がバルク状態の水と比較して過冷却解除温度が低下することに着目し、W/O型エマルションに微生物を内包することで過冷却現象を利用した低温保存方法について検討を行った。本論文では、過冷却状態での保存に適したW/O型エマルションの調製方法、分散相及び連続相について検討した。また、酵母内包W/O型エマルションの過冷却解除温度が均質核形成温度の-42Cよりも高くなったため、内包物が及ぼすW/O型エマルションの過冷却解除温度への影響についても検討した。従来の微生物の低温保存方法とその問題点、バルク状態の水と微細水滴での凍結温度の違い、水の過冷却、乳化に関する概論を示した。MC乳化によるW/O型エマルションの調製方法、画像解析による液滴径の測定方法、熱分析測定とその結果の解析方法、低温保存方法について示した。 過冷却状態での保存に適した分散相について検討するため、対数期と定常期の状態の酵母分散培養液を用いて酵母内包W/O型エマルションを調製し、低温保存前後の液滴径変化と生存率の測定を行った。その結果、いずれの分散相においても、高い酵母内包率で均一な液滴径のW/Oエマルションを調製することができた。調製した酵母内包W/O型エマルションを低温で保存したところ、液滴安定性に差は観察されなかったが、生存率には変化が見られた。分散相として定常期の状態の酵母分散培養液を用いて調製したW/O型エマルションで高い生存率が維持できた。 以上の結果より、分散相として定常期の状態の酵母分散培養液、連続相としてシリコーン油を用いて酵母内包W/O型エマルションを調製することが最適であると示された。
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