本研究ではこれまでの農作物冠水被害に対する調査方法が抱えていた安全性・迅速性・効率性・公平性・正確性に関わる諸問題を解決すべく、衛星リモセンによる被害判別手法の確立を目的とし、さらに東南アジア各デルタ地域の過去・現在の農作物冠水被害ならびに適応策の評価を行った。研究期間において以下の課題について成果が得られた。 洪水発生時における農作物の生育状況を見極めることによって被害を推定しようというのが、本研究で提案した冠水被害判別手法の考え方である。MODIS時系列衛星データから得られた洪水の発生日およびその時の生育状況の関係から、冠水被害をNo damage、Total loss、 Partial loss の3段階に分類し評価した。MODIS/AquaおよびMODIS/Terraの合成によるノイズ処理精度、合成開口レーダー(PALSAR)画像による冠水域判別結果を基準とした冠水域判別のパラメータを最適化等によって精度の改善を図った。本手法による被害判別結果は現地で実施した過去の被災状況の調査結果ともよく一致することが確認された。 最終年度は洪水被害発生/回避成功事例の解析および対象地域を拡大した農作物被害判別アーカイブの整備を中心に進めた。農作物の洪水被害を根本的に回避するための条件とは、洪水を発生させないこと(治水)あるいは洪水時期に農地で何も栽培されていないこと(作付時期の調整)のいずれかであるが、特に後者の被害回避策については、洪水頻度が少なくなった地域すなわち治水条件が整っている地域ほど軽視される傾向にあり、そのことが大洪水年における被害拡大につながる一因となっていると考えられた。 本被害判別手法は,当初の予想以上に実用的であることが確認できたため、今後はモニタリングシステム等、社会実装に向けた応用研究にも取り組んでいく。
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