研究課題/領域番号 |
26450367
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
尾崎 敬二 国際基督教大学, 教養学部, 客員教授 (60160834)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 情報工学 / 農業環境 / リモートセンシング / 画像情報処理 / 画像計測 |
研究実績の概要 |
商用デジタルカメラに可視光を遮断する赤外レンズフィルターを装着して近赤外画像を取得し、可視光画像との組み合わせで植物の活性度を表す植生指標を推定してきた。2枚の画像を組み合わせて、高精度に標準植生指標を推定する手法は、ほぼ確立できている。しかし、この手法は、手順が煩雑で困難であった。そこで、可視光画像1枚のみで植生指標を推定できる簡便な方法を試行し、これまでの標準植生指標による結果と比較して、その有用性を検討した。可視光緑色域の反射率の大きさが、植物葉の葉緑素の量と相関があることから、近赤外域画像を使用しないで、可視光緑域画像と赤域画像から植生指標を推定した。この緑赤植生指標は、近赤外域と赤色域から求める標準植生指標に比べ、その値の分布範囲は狭いが、植生域を含む正の値の領域では、この2つの植生指標間には、ほぼ線形な相関が見られた。これに基づき緑赤植生指標から近似的に疑似標準植生域を推定し、その分布図を作成した。 その結果、疑似標準植生指標分布図における植物葉領域は、分光放射計の測定値から求めた値、0.65にかなり近い0.5から0.6の範囲の分布を示した。しかし、この疑似標準植生指標分布図では、明らかに非植生域であるグレー板や床などの領域が植生域と区別しにくくなっていた。このように非植生域と植生域の識別が困難である問題点への対処は、緑赤植生指標を利用する上で、今後の大きな課題のひとつであることが、判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(A)画像画素値の適正レベル補正:グレー標準カードを対象物とともに撮影し、基準画素値とすることで可視光画像、近赤外画像の異なる露光状況の問題を解消できている。2つの撮影画像による、植生指標推定を可能とする適正レベル補正を得た。画像輝度が極端に低い場合を除いて、この目標は達成できた。 (B)影領域抽出・対応:画像輝度とカメラの受光素子への露光量との関係を用いて最低輝度閾値を算出でき、かつカメラ画像の入出力ガンマ値に依存する最低輝度閾値を算出する目標も、達成できた。 (C)NDVI推定:推定精度に関し、分光放射計測定値から算出の植生指標値と比べた相対誤差率が10%未満程度という高精度化の目標は達成できた。ただし、種々の事前に予想できていなかった要素(例えば、画像輝度が極端に低い場合)のために、相対誤差率の揺動がみられるケースがある。 (D)NDVI以外の植生指標の試み:NDVI以外の指標として、近赤外画像を使用しない、通常の可視光のカメラ撮影画像のみで推定できる「緑赤植生指標」を主として取り上げた。可視光画像のみで得られる植生指標の有用性は、非常に高いと思われるので、特に、この「緑赤植生指標」に絞り込んだ。 (E)複数のデジタルカメラ特性測定:現在までに2~3種類のコンパクトデジタルカメラによる推定結果を比較検討し、今回の研究の手法が複数のデジタルカメラに対し有効であることを確認できた。近赤外域、可視光赤色域、緑色域の3色域を撮影可能な、いわゆる「農業カメラ」と呼ばれる近赤外カメラによる推定結果との比較も参考として実施した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画で目標到達とならなかったのは(F)仮想的光学フィルタを用いて、可視光画像のみから、標準植生指標(NDVI)を推定する試みであった。 その背景の一因としては、撮像素子(CCDやMOS)の分光効率特性は一般に公表されない点にある。そのため、仮想的光学フィルタ設計には、何らかの分光出力特性を仮定する必要がある。 モノクロ輝度特性が既知の複数のグレーカードを撮影した画像を用いてその特性の推定を試みた。残念ながら、商用デジタルカメラに対して普遍的な分光出力特性を推定できなかった。 そこで、近赤外画像を用いないで、可視光域画像のみで植生指標を推定する試みを推進する。 可視光域の緑色と赤色の画像の組み合わせで、植生の特徴を強く示す指標として、緑色と赤色画像の比、あるいは、この比と差を組み合わせた指標がある。 しかし、これまでのところ、可視光画像のみで推定の植生指標では、非植生域と植生域が、かなり近い範囲の1次元指標値となっている。そこで、別の次元量を組み合わせることで、問題点を回避できないかを検討している。また、この推定植生指標をこれまでの標準植生指標と比較評価するためには、同一露光条件下、かつ1度の撮影で近赤外画像と可視光画像の取得が可能な、近赤外カメラの利用は不可欠となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の主な支出が論文投稿料、論文別刷りと、学会出張費に抑えられた。当初の研究計画に含まれた地球観測衛星データと地上での近接リモートセンシングデータとの比較を変更して、デジタルカメラ画像による推定植生指標の研究課題に集中したことが、主な理由である。それゆえ、高価な地球観測衛星データの入手を行わなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
申請時の研究計画目標は、ほぼ達成できたが、赤外レンズフィルターを使用しない、通常の可視光画像のみで推定する緑赤植生指標を提案し、これまで達成できた結果との比較検討を行う必要が生じた。この提案指標によって、ある程度の精度を得られるなら、スマートフォンのカメラによる可視光画像のみで、推定する植生指標の分布図が利用できることになり、農業、環境などの幅広い分野への実用的な貢献は非常に大きいと期待する。今後の研究では主として、近接リモートセンシングデバイスに用いるデジタルカメラには、近赤外域、可視光赤色域、緑色域の3色域を同時撮影可能な、近赤外カメラを用いる。このために、安価な商用デジタルカメラを改造して利用する計画である。 さらに、撮影対象物および観測対象範囲を広げるために、ドローンの有効活用も、あわせて計画している。
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