乳牛の繁殖性に細菌感染による炎症性疾患が影響することが知られており、これに白血球の機能が関与している。乳牛のなかには,疾病に罹りやすい牛と罹りにくい牛がいることから,一塩基多型(SNP)の違いが免疫細胞の機能に変化を与え、乳牛の繁殖性に影響している可能性がある。本研究課題では、TLR4およびTLR2のSNP多型と卵胞膜細胞のステロイド合成との関連を調べた。TLR2のSNPにおいて卵胞膜細胞のアンドロジェンをみたところ、TT型に比べGT型において有意に減少することがわかった。このような現象は、TLR4のSNPでは認められなかった。これらのことから、卵胞膜細胞のステロイドホルモン産生にはTLR2のSNPが関与することが明らかとなった。 上述のように、これまで核ゲノムにおけるSNP解析を行ってきたが、細胞機能に影響し母性遺伝するミトコンドリアゲノムにも着目し、乳牛の繁殖性との関連性の解析を行った。本研究課題では、ミトコンドリア由来因子として、ATPアーゼ6(ATP6)およびサーチュイン1(Surt1)のSNP解析と乳牛の繁殖性として分娩後の初回排卵の有無との関連を調べた。その結果、ATP6のSNPにおいて、多型が認められなかった。一方、Sirt1においては、CC型、CG型、およびGG型の3つの多型が存在することが明らかとなった。このSirt1の3つの多型と分娩後の初回排卵の有無との関連性を検討したところ、それぞれの多型で排卵が認められた乳牛の割合は、CC型が44.4%、CG型が50%、GG型が43.5%であり、SNP多型間に有意な差は認められなかった。これらのことから、Sirt1のSNP多型は排卵の有無に関与しない可能性が示唆された。
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