良質タンパク質の供給源である食肉は、量的・効率的生産が重視される一方、国際的には食肉の高品質化が求められている。食肉の高品質化の中で、剪断応力、抗酸化性等とともに呈味の向上に対する期待は大きいが、呈味は評価が難しいのみでなく、飼料栄養を用いた呈味の調節は困難とされてきた。申請者は、短期の飼料の特定アミノ酸量の調節による筋肉遊離グルタミン酸(Glu)量の増加と食味の向上の可能性を得た。この新たな栄養制御手法をさらなる高品質化に繋げるため、遺伝子発現、メタボローム等の解析から調節機構を、また食肉の熟成の影響を検討し、食肉の価値向上を追求した。 1)飼料リジン(Lys)量をNRC要求量の低レベルから高レベルまで段階的に設定した飼料を10日間給与した筋肉試料のメタボローム解析から、低及び高Lys飼料のいずれからも筋肉遊離Glu量が増加することを確認した。遺伝子発現解析から、高レベルと低レベルでは調節メカニズムが異なる可能性を得た。2)高タンパク質飼料において熟成後の食肉への影響を検討した。その結果、保存48時間から段階的に検討した各時間において、対照区に比較してLys添加による胸肉で有意にGlu量が増加した。また遊離アミノ酸総量が増加した。さらにドリップロスが有意に低下する結果を得た。これらからLys添加における熟成後の新たな肉質向上の可能性を見出した。4)機能性物質イミダゾールジペプチド(IDP)の代謝において、食餌性の塩基性アミノ酸のLys、または含硫アミノ酸のMetの検討から、筋肉のカルノシン(Car)/アンセリン(Ans)比に変化が生じ、IDP総量は変わらないものの筋肉Ans量の増加が示された。CarとAnsの機能が異なるとする報告に基づくと、飼料栄養により肉質として適切な比率に調節できる可能性が示された。アミノ酸代謝に基づく解析により以上の成果を得た。
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