研究課題/領域番号 |
26450377
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
土井 守 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (60180212)
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研究分担者 |
楠田 哲士 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (20507628)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホットスポット / 希少動物 / 生息域外保全 / 動物園動物 / 絶滅危惧種 |
研究実績の概要 |
平成27年度では、平成26年度で対象にできなかった種について研究が実施できる体制に入ることができたため、ゾウ科、キリン科、サイ科、ネコ科、クマ科、ウマ科、霊長類の希少動物の繁殖生理のモニタリングを開始した。 アフリカゾウとアジアゾウ計8頭およびインドサイ、クロサイ、シロサイ計20頭では、糞中、血中および乳中のステロイドホルモンやその代謝物の量的変動を調査するとともに、泌乳期中における乳中生化学的諸成分濃度の分析を行い、出産後の内分泌状態、乳成分変化、諸行動との関連性を明らかにした。アミメ系キリン雌5頭では、糞中プロジェステロン含量を測定するとともに、肉眼観察結果と赤外線カメラで撮影された映像から、発情期や非発情期、育子期間における特徴的な行動や発現時期について調査した。スマトラトラ、インドライオン、ジャガー、マヌルネコ計6頭とジャイアントパンダ、ホッキョクグマ、メガネグマ計7頭については、妊娠期と偽妊娠期の糞中と尿中の各種ステロイドホルモン代謝物およびプロスタグランジンF2α代謝物を測定し、排卵から分娩に至る一連の妊娠生理を明らかにした。グレイビーシマウマ雌11頭では、雌の糞中プロジェステロン含量を測定するとともに、施設間移動(ブリーディングローン)を行った際のストレスを検討するために糞中のコルチコステロイド含量を測定して検討した。またニシゴリラ3頭では、飼育下での繁殖管理上課題とされてきた人工哺育個体の群れへの復帰を目指した母親個体の発情回帰の抑制を行うため避妊薬の経口投与を行い、その後の育子期における母親の卵巣活動について調査した。また一方で、雌雄ゾウ、シロテナガザルおよびキンシコウの尿中のセロトニン濃度の変化を捉えた。 これら希少種の繁殖生理等に関する成果全てを各動物種の飼育園館と共有して、今後の生息域外保全体制を促進する上で重要なデータを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、ゾウ科、キリン科、サイ科、ネコ科、ウマ科、霊長類の希少動物の繁殖生理や諸行動について内分泌モニタリングを行う研究計画をほぼ全て完遂できた。さらにはウマ科などの予定外の動物種も対象として研究を実施することができた。またその上、動物個体の情動の変化と関連して血中への移行量や尿への排泄量が変化するといわれているセロトニンを尿中で測定することに成功し、例えば雄ゾウの攻撃性が増すマスト期およびキンシコウやシロテテナガザルの雌個体の卵巣周期と妊娠期における尿中濃度の変化を調査することができ、尿中セロトニン濃度の変動が生体の攻撃行動や性周期に関わる行動発現と関連することを明らかにすることができた。 ただ、研究開始時には発情兆候や性行動がほぼ見出されず不妊の希少種が飼育されていたため、研究開始当初は侵襲的な性ホルモン処理による排卵誘起を行って妊娠させる方法を考えていたが、ブリーディングローンなどによって必ずしも侵襲的な手段を用いなくても妊娠が可能となった個体も現れ始めた。そこで、現在霊長類の特にゴリラの繁殖管理上大きな課題のひとつとなっている人工哺育個体の群れ復帰を解決するために母親の発情回帰抑制を目的とした経口ホルモン剤投与による避妊処置について検討し、その後の生殖腺活動に与える影響について詳細に解明した。育子放棄や母乳不足により産子を人工哺育に切り替えたため、母親の発情回帰を抑制するために一定期間発情ホルモンと黄体ホルモンの合剤で排卵を抑制するヒト用避妊薬(オーソM-21錠)を経口投与し排卵を抑制したが、その後の卵巣活動の回復と活発化には大きな影響をもたらさないことが明らかになった。 また、過去の妊娠や出産の際に採取した対象希少動物種の血液、排泄物または乳サンプルを用いて、妊娠期や出産から発情回帰までの繁殖生理や泌乳期間中の乳成分の変化についても調査した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度までにある一定の成果が得られた一部の動物種を除く場合も考えられるが、原則的にはこれまでの研究内容を継続して実施する予定である。今年度は、当初計画していなかった研究対象動物も取り扱うことができ、研究内容もさらに拡大し順調に研究を進めることができたが、必ずしも対象動物種の繁殖生理現象の全体像を捉えたとは言い難い。そのため、来年度はさらに多くのサンプルと繁殖学的事象について調査し、個々の種特有の繁殖学的な知見を導き出す予定である。来年度は、これらの点を踏まえて研究を進めるとともに、本研究の成果を社会にできる限り広く発信し、動物園等とのデータの共有化を行いながら協議し合い、当該希少動物種の生息域外保全計画の推進を促す。
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備考 |
動物繁殖学研究室の研究業績(論文)http://www1.gifu-u.ac.jp/~lar/contents/lar_article/lar_article.html 動物繁殖学研究室の研究業績(学会発表)http://www1.gifu-u.ac.jp/~lar/contents/lar_meeting/lar_meeting.html
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