今日,体外で受精欄を生産して産子を得る受精卵移植技術は畜産分野では優良家畜の増産や家畜改良に,医療分野(産婦人科領域)では不妊治療に欠かすことのできない重要な技術である。しかしながら,体外における受精卵の人為的操作は,受精卵の品質の低下を招き,さらには治療成績の低下にもつながることから,体外受精卵の品質を改善させる技術開発が強く求められている。これまでの研究で,受精卵の品質とミトコンドリア活性に正の相関が認められること,近赤外領域の光に細胞のミトコンドリア活性を向上させる働きがあることが報告されている。そこで本研究では,近赤外領域の光が哺乳動物の初期胚発生におよぼす影響およびその制御機構を明らかにすることを目的としている。 平成27年度は,ウシ体外受精卵に対する近赤外光照射の影響を解析した。その結果,桑実胚期(発生培養5日目)および胚盤胞期(発生培養7日目)のいずれの照射タイミングでも,非照射区と比較して有意に発生率が向上した。さらに,近赤外光を照射した胚盤胞は,非照射区と比較して,構成細胞数が有意に増加し,孵化胚盤胞へ至る時間も有意に短くなることが明らかとなった。これらは,平成26年にマウス受精卵で得られた研究成果と同様の傾向であった。また,マウス受精卵を用いて,受精卵移植試験を実施した。近赤外光を照射した胚盤胞を,偽妊娠雌マウスの子宮へ移植した結果,受胎率,産子率のいずれも,近赤外光照射区で向上する傾向が観察された。今後は,移植例数を増やすとともに,産子の正常性についても検討する予定である。
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