研究課題/領域番号 |
26450381
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
山下 泰尚 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (50452545)
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研究分担者 |
島田 昌之 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (20314742)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ADAM17 / EGF-like factor / Neurotensin / 卵成熟 / 排卵 / 体外成熟培養 |
研究実績の概要 |
ブタやウシの産業動物において、体外成熟培養法(IVM)により優良形質の卵巣に数多くある未成熟卵を成熟させることで多くの産子を得ることが理論上可能である。しかし、その成功率は低いことから、体内における卵の成熟機構を理解し、IVMに応用する必要がある。これまでに排卵刺激を受けた卵巣ではEGF-like factorがその切断酵素のADAM17による切断作用により卵を取囲む卵丘細胞のEGF受容体(EGFR)を刺激することで卵成熟が促進されることを報告してきた。H26年度は、卵胞発育期および排卵期におけるADAM17の活性化に関与する因子を探索したところ、これまで他細胞種でADAM17の活性化に関与することが報告されていたANEXINNの発現は卵胞発育期に認められるものの、ADAM17の活性化への関与については積極的なデータを得ることができなかった。一方、排卵期におけるADAM17の活性化制御因子について調べるために、性周期をコントロールできるマウスを用いて同様に探索したところ、卵胞を裏打ちする顆粒膜細胞に排卵刺激後に神経ペプチドのNeurotensin(NTS)がEGF-like factor依存的に発現すること、このNTSはNTS受容体を介して顆粒膜細胞のADAM17の活性化を上方制御し、EGF-like factorの効率的且つ持続的分泌に関与することを初めて見出した。さらに、NTSは、EGF-like factorの持続的分泌を促進することで、卵丘細胞のEGFR-ERK1/2系の活性化を排卵期後期まで持続させ、その結果生じる卵成熟の指標である卵丘細胞の膨潤と卵の発生能を向上させる制御因子であることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
排卵期に顆粒膜細胞で発現するNTSは、ADAM17の活性化を排卵期後期まで持続させ、卵成熟を向上させることを初めて見出した。これまでの研究によりEGF-like factorを外部添加してIVMすることは、見かけ上の卵成熟率(MII率)は向上させるが、受精後の発生能を阻害することが知られている。IVM開始すぐにEGF-like factorを添加することは、EGFR-ERK1/2系に培養開始後すぐに強い刺激を生じてしまい、その後シグナルは消失してしまうこと、NTSをIVM時に添加することでEGFR-ERK1/2系のシグナルが維持されることも見出していることから、本研究結果はNTSはADAM17の活性時期を制御し、EGF-like factorの分泌をコントロールしていることを意味しており、研究期間2年目として目標としていたADAM17の時期特異的活性制御とその基質解明については概ねクリアーしていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H27年目までの研究により、マウスにおいて排卵期の顆粒膜細胞に発現するNTSはADAM17の活性を維持することで効率的・持続的にEGF-like factorの切断分泌を促進し、卵成熟を向上させることを見出した。体内のブタサンプルを用いてNtsおよびNtsr mRNA発現を検討したところ、マウスと同様にこれらの発現がそれぞれ顆粒膜細胞と卵丘細胞で排卵刺激後に一過的に上昇していることを確認している。このことから、産業動物であるブタにおいても、同様にNTSがADAM17の活性を制御することで卵成熟を促進すると考えられることから、H28年度はブタにおけるNTSの役割の解明とそれを用いて新規IVM法の確立を試みる。
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備考 |
第56回日本卵子学会学術奨励賞受賞
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